宣戦布告 2

 あれから時は少し経ち。日が強くなるころ。

 僕とティエルはテンプレス村のすぐ近くの山、グレゴルトの山頂付近にいる。周りには見たことのない山花、悲鳴を挙げるキノコ。亜熱帯のような暑さと湿気が皮膚にまとわり着き、率直にキモい。

 山の入り口からここまで危険な目には一度もあってはいないのだが、訳のわからない植物に囲まれているという現状に気をすり減らしてはいる。このままいったら、テンプレス村の宿舎に戻ると同時にバタンキュンだろう。

 「コウタ君、そろそろ山頂だよ。マンドラゴラが大量発生してるという情報が本当だとすると山頂に群れをなしてると思うよ。奴らキノコ族のモンスターなのに日の光が大好物だから」

 おいおいティエルの情報だとマンドラゴラって好戦的なんでしょ? 

 そんなのが群れをなしてるって大丈夫なのか? 

 「ティエル、本当にマンドラゴラの群れなんて相手にして大丈夫なの?........ほら奴ら結構攻撃的な奴らなんでしょ?」

 「大丈夫、大丈夫。そのための装備でしょ? たまには冒険しないとね」

 不安で一杯の僕の装備はTシャツに短パン。それに折りたたみナイフと耳栓をティエルから預かっている。

 にこやかに微笑むティエルの装備は、ピンクのワンピース、スカート内に隠されたナイフ、背中の青のリュックに、その中にある棒状の物体。

 この棒状の物体については本人に聞いたがなにも教えてくれなかった。危険な物なのだろうという予想は立ててはいるが、きっと必要なものなのだろう。

 「少しでも稼ぎになるようにがんばるよ」

 「コウタ君はこの三日間、いろいろ頑張ってきたよ」

 確かに僕にしてはがんばれてる。けれど凄すぎる彼女の手前そうは思えないのが現状だ。『もっと自信が欲しい』この思いだけが今も昔も変わらない永久保存版だ。

 「いやいや、ティエルに迷惑かけっぱなしだもんな。弱い僕から見たら、心の強いティエルは羨ましいよ」

 「違うんだよ。私のはただの過剰防衛で本質的には決して強くないんだ。だからコウタ君の前で他人からお金を取り立てた時だって、うまく言えないけど強く生きようと心の中でずっと唱えてた。一度、弱い方に心を曲げたら人はどんどん腐っていくと思うから」

 「........そっか」

 ティエルの言葉に心の底から納得していた。人は元来、楽な方へと流される生き物だ。その弱さをどこかで食い止めて強く生きなければなにも変わらない。

 僕は典型的な敗者思考。忘れたい過去に反省せず、嫌な今日からは目を背け、ただ明日という日にだけ希望を語りなにも生み出さない者。

 けど、ティエルに会って三日間。心に漂っていた霧が少し晴れたように感じる。彼女が僕という一人の役立たずを軽視せず、必要だと認識させてくれたからだ。

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