宣戦布告 1

 僕とティエルが出会ってから三日目の早朝。

 目覚めた場所はフルクワーズ町から北に二十キロ程いった所にある、テンプレス村の小さな宿舎。

 特徴の無いことが特徴という某アニメのセリフがピッタリなのどかな村だ。 

 ティエルと僕がここに来たのにはもちろん、明確な理由がある。

 ーーこの村の近くで『マンドラゴラ』が大量発生しているという情報を、旅の途中小耳に挟んだのだ。

 マンドラゴラはファンタジゲームではお馴染みのキノコ。

 僕がPCゲームで知る限りのマンゴラゴラの特徴としては、『土から抜くときに赤子のように泣き、その泣き声を聞くと死ぬ』『引っこ抜いた根っこの部分が人間の赤子のような風貌をしていてキモい』『あらゆる薬に使われる異世界版高麗ニンジン』というのが印象に根深い。

 だが、ティエルが僕に提供してくれたマンゴラゴラの情報はかなり違う。

  

 彼女曰く、

 一つ、マンドラゴラは植物じゃなくて歴とした土の中に身を置く動物らしい。

 二つ、声を聞いても死な無いが、好戦的で攻撃してくるらしい。

 三つ、薬に使われることには使われるのだが、気持ち良くなっちゃう方の薬らしい。

 四つ、だいたいマンドラゴラ一体あたりの買取金額は一万トル。


 ちなみに昨日、二百トルでティエルがりんごを二つ買ったところを見ると、一トルはだいたい一円の価値と考えてもいいだろう。つまり一体につき約一万トルの報酬が支払われるマンドラゴラを大量に狩れば、一攫千金も夢ではない。

 僕は期待に胸を躍らせ二段ベッド下側から、上側にいるティエルへとベットの外に起き上がりそっと声を掛ける。

 「ティエル? 起きてる?」

 反応がない。

 昨日は情報収集や衣服食料の調達で村内を巡回したし、なにより旅に不慣れの僕をサポートするため気を巡らしていてくれたから無理もない。

 ........本当にティエルには感謝してる。 

 ベッドの枕側にある彼女の目覚まし時計は未だ鳴らない。予定の時刻よりも少し早く起きてしまった僕は、その天使の寝顔を拝見すると、窓のカーテンを開く。 

 窓の外映る風景は山々の間を抜け昇る朝日。

 その強い光に照らせれ遠くに群れで移動する飛竜種。

 ネトゲ廃人予備軍だった僕はそのスケールの大きさに言葉を失うと、ティエルの寝るベッドへと再度駆け寄る。

 「ティエルすごいよ。めっちゃ飛んでるよ」

 が、反応がない。

 彼女が気持ちよく寝ているのを邪魔したくはないが、『この風景を見せななきゃ』『この気持ちを共有しなきゃ』という願望が先陣を切る。

 もう肩をトントンして起こそう。それしかない。

 軽い気持ちでティエルの肩に右手を伸ばす。

 

 ........伸ばす........................伸ばす。バシンッ。

 

 僕の右手が勢い良く弾かれると同時に、喉前に突き立てられるナイフ。

 ティエルの顔をとっさに見ると、瞼一つ動かさず、表情筋一つ動かさず、死という概念そのものが形を帯びているように感じた。

 二人の緊張状態はおよそ一秒。

 ティエルは僕に向けていたナイフをベッドに置き、自身で今の状況をどうしていいのか分からないと目を背ける。

 「ごめんね、コウタ君。寝てる時になにか近づいてくると防衛本能が働いちゃう」

 どうしよう? この空気。逆にティエルに笑ってごまかしてほしいな。

 僕はぎこちなくも作り笑顔を彼女に送る。

 「いや、こっちこそごめん。女の子の身体に気安く触れようと思うこと自体悪かった」

 「........ほんとごめん」

 「こちらこそ」

 なんだかよそよそしくなってしまったが、僕の眠気がぶっとんだのは確かです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る