翻弄

@maple03

第1話

面接官はスマートな男であった


ガタイのいい男が横にいた


主と副という感じである


いつ?どこで?誰と?を念入りに聞かれるのであるが

全く上手く答えられない

「先頭に立って何か仕掛けたことはありますか!?」

バイト経験が少しあるだけである


「もうそこで社員にしてもらえば?」

ブルータスのような副の男が顔を紅潮させて言ってきた


最初は「ここは中途が多いから!」「ゴロのいい誕生日だよなぁ」

などと助け舟らしきものも出してくれていたのであるが、

ハルヒコがバイト君が笑顔で在庫を取りに来るたび睨みつける姿を見て

態度が変わってしまった


主の男が険しい目を潤ませながら言う

「若い人とうまくやっていけます?うちは若い人が多いですよ」


「商売のコツってなんだと思う?」


「1人暮らししたことないでしょ?」

あります

「いつ?」


この頃にはハルヒコの頭は真っ白になっていた


もはやボールペンは弄ぶために持っている主の男


険しい顔で腕組みして見つめている副の男


最後に主の男が言った「貴重な時間をどーもっ!!」


ハルヒコは怒った!!

「30歳位までOKっていう求人出したのはそっちじゃん!

コミュ力の高い奴が欲しければ友達の友達でも声をかければいいだろうが!

てめえらんとこはコミュ力の高い人格の優れた野郎しか入れねえんだろうから、

友達だって多いはずだろう!!」


ハルヒコは言うなり机をひっくり返し、椅子を持ち上げると主の男に投げつけた


「商売のコツだと!?バカかオマエーッ!!

そんなもんがあったら苦労あるかい!こっちだって時間は貴重だ!」


ブルータスが目を見開いて真っ赤な顔で向かってきたので、

主の男が取り落としたボールペンで目を突いた


「てめえに俺の何がわかるってんだ!

カワイイ飲み仲間ならてめえのコミュ力で探せや!」


ハルヒコは短期バイトと空白だらけの履歴書を奪い返すと

事務所兼倉庫から遁走した


通路に笑顔の学生バイトがいた

「必要分ぐらい見当つくだろうが!」

すれ違いざまラリアット!

「大事な面接してるくらい分かれよバカヤロウ!」

ケツを蹴り飛ばして駆け抜ける

「まとめてもってけ!」


店舗エリアへ踊り込み、バットでトルソーを叩き壊し、

そこらのボールをひっつかんでは客や店員たちに投げつけて、

サザラモザラにしているうちに非常ベルが鳴り響く


店舗前の駐車場を抜けて、幹線道路を駆け降りる


パトカーのサイレンが聞こえてきた

おいでなすった、しかし息がキレてしまって動けない


ハルヒコは道路に大の字に寝転がってしまった


パトカーはハルヒコの姿を確認した辺りでパンクして止まった


ポリスマンがパトカーから降りて調べた

「マキビシ!?」


ハルヒコは飛び起きて走りだした


走りに走って橋の上、ハルヒコの背後には大きな河が流れている

遂にハルヒコは囲まれた、追いつめられた


「スポーツフェスタ・キリマンジャロの・・・」

ポリスマン達が無線で連絡取り合っている


応援のパトカーも到着し、更なるポリスマンが降りてきた

いよいよハルヒコの捕獲に着手する


「Hasta la vista , baby」


ハルヒコはポリス達に吐き棄てると、

サムズアップで背後の大河に飛び込んだ


ポリスマン達は河川敷に沿って追跡を続ける

ハルヒコの姿は浮き沈み、更なる下流に流される


もはや自分では自分をコントロールできないようだ

滝壺へ向かってハイスパート!


ポリスは河川敷から滝壺へと捜索隊を送り込んだ


棒で深みをつついたり、岩をひっくり返して調べたり、

それなりに汗まみれ泥まみれになって見つかったのは

キャンパーが棄てたと思しきダッチワイフと、

後はサワガニだけだった

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