第5話 きつねご
元は溶け狐だよ? 元はくたびれ狐だよ? そんな心の中を落ち着けて、
人手が足りないという事で、紅白の巫女服でアルバイト中なのです。一度着てみたかったというのはあるけれど、一人で売り子は結構疲れます。甘酒売りの方でも良かったなぁ。
とにもかくにも、普段はやたらと閑散とした境内には、ひっきりなしに参拝客。つまり「ぐだり狐」さんは、ひっきりなしに、「にやけ狐」さんになっているのです。
こっそりと溜め息をついていたら、横から袖を引かれる。何故か販売してる社務所側に着物を着た子どもが一人入ってきていて、私の袖を引いている。
「勝手に入って来ちゃ駄目だよー。お父さんかお母さんは?」
首を左右に振る。迷子かな。誰かを呼ぼうにも、代わりの人もいないからどうしようかと思っていたら、私の膝の上に座る女の子。なつかれたらしい。私が立とうとすると、無垢な眼差しで悲しげに見上げて来る。
無言で動きを止めるなんて、中々強力な技を使うじゃない……。お姉さん動けません事よ。と、そこにお客様が。
「こぁ」
……狐が二足歩行して、
空には雲も無くて明るいのに、雨が降ってきた。そんな中お客様(狐)は絶えず、膝の上には相変わらずの女の子と、葉っぱは山盛り。この状況どうしようかと思っていたら、笛やら太鼓やらの音と共に行列が境内に。行列の中ほどに白無垢の狐が。
「あ、狐の嫁入り……」
そのまま、境内の奥へと進む行列。列の最後の辺りにいたおめかしした狐がこちらを見て慌ててやってきた。膝の女の子が立ち上がると、そっちに走っていく。葉っぱはあれだけあったのに、いつの間にか全部ちゃんと持って行っている。
見ていると、女の子は怒られていたみたいで、頭をはたかれてその部分から尖った耳がニョキっと出てくる。やっぱり狐の子かぁ。と、女の子がまたこちらに走ってくると、私に葉っぱを一枚渡しに来た。受け取るとバイバイと手を振って、行列の後を追って行ってしまった。
「いやぁ……何か急に式が入ってしまいまして……」
ようやく夕方になって売り子業務が終わった頃、ぐだり狐さんがやってきて平謝りしてきた。日中にあった事を話すと、あれで対応は問題無いみたいで一安心。
「その葉っぱは、これに入れておくといいですよ」
一枚ある葉を見て御守り袋をくれた。不器用に袋に詰める姿は、私が慣れ親しんだいつもの「ぐだり狐」さんで何故か安心する。
「子ども……可愛いですよね」
ん、と上げた顔は狐につままれた様な表情。とりあえずつねっておこう、そうしよう。
境内の奥の方から、九尾の人が笑った声が聞こえた気がした。
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