第4話 きつねよ

 風邪を引いた。見事なまでに風邪っぴき女子だ。38度を越えたら意識が朦朧とし始めて、39度越えたら視界がおかしい……。こんな時に独り暮らしは辛いのです。からいじゃなくて、つらい。


 実家も遠いし、友達もみんな平日の日中は仕事。今まさに、だれかたすけて……あ”ー【あいすくりーむ】たべた……い……。



 アイスが現れた! しかもバニラアイスだ!



 うそだー。ねつでとけてるからだー。でもひんやりつめたい……うふふ。だれかたべさせてほしいなー。



 アイスが開いた! スプーンが刺さった! 口に運ばれてきた!



 わぁ~つごーのいいゆめだ~。いただきまーす。ばにらおいしいです……すゃぁ……。




 ハッ! 風邪が落ち着いてる!

 カップのアイスクリームは、全部食べた事になってシンクに空の容器が置いてある。私凄い……? いやぁ……これは流石に私じゃないでしょう。


 床を見ると、長い茶色い毛。もしかしてと、カバンについてる先日頂いた萌えな九尾ストラップがを見ると風もないのにパタリと背中を向ける。何だかお世話になっちゃったみたい。今度お礼しないとね。




 さて、夜も更けて熱もだいぶ下がって参りました。今宵はご飯作る元気もやる気もありません。しからば、コンビニグルメの旅へいざゆかん。最近は美味しいのが増えたし、ヘルシーなのも多いのよーと、向かったのはいいけれど、ちょっと暗い道を通ったのがいけなかった。


「そこの姉ちゃん」


 ガラの悪い声が私を呼び止める。無視して通り過ぎようとしたら掴まれる腕。ちょっとこれピンチかも。急いで振り払おうとするも強い力にケモノ臭い息。


 私を掴んでいる相手を振り返る。汚れて毛並みもぐちゃぐちゃな人間大の狐が私を掴んでる。ちょっと本気でやばい。叫び声すら出ないで私は腰が抜ける。


「悪い様にはしねぇから……俺と……」


 その先は無かった。何故なら、コンビニの方から走ってきた誰かがその口を思い切り蹴り飛ばしたからだ。そのままその誰かは無言で汚い狐の腕をめると、荒縄で縛り上げる。


「女性には、優しくするものですよ。ね、そこなお嬢さん」


 ちょうど月の光が照らしたそこには、地面に倒れて小さくなった狐と、頭の上から生えた耳、腰から立派な二尾の尻尾の袴狐……ぐだり狐さん!? 若返ってるし、イケメンになってる! でも声の雰囲気が同じだ。


 月が雲に隠れたら「月に変わってお仕置きじゃな」と、九尾なお狐様な声と必死に謝罪する汚い狐の声。


「さ、参りましょうか。お嬢さん」


 腰が抜けた私に優しく手を伸ばす、ぐだり狐さんもといイケメン狐さん。どうにか立てた私は並んでコンビニへ。なんでも満月で力が強くなってる上に、最近参拝客が増えて【れべるあっぷ】したとか。そんな成長方式なんだーと、顔をマジマジと見ていたらあっという間にコンビニへ。そのまま二人で入ろうとしたら突然の雨が。慌てて店内へ入って振り向いたそこには。


「こゃぁ……」


 あ、いつものぐだり狐さんに戻った。


「おきゃくさーん、ペット連れはダメよー」


 店員さんに無情にも入店を断られてしまったのでした。

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