第3話 きつねさん

 ――ゆめを――みました――




 幼稚園……いや、もっと小さい保育園の頃だったと思う。本土ではない南の方のとても暑い地域でした。遠足で何故か防空壕を見に行くなんていう、今考えると凄い予定を保育園は組んでました。


 でも、防空壕の前に来て、わたしはどーしても入りたく無かったんです。防空壕が怖くて怖くて。入口のすぐ近くまで来て泣きじゃくってしまったわたし。すぐ終わって戻って来るから……と、母はまだやっと歩ける位の小さな弟を抱っこし、先生達と防空壕へと降りていきました。


 わたしは何がこわいのか分からずにその後も泣いていました。すると、すぐ真横の切り株の上で何かの気配がしました。白い――なにか。


 白くてふわふわしたものは、わたしをじっと見ていましたが、口にくわえていた草をわたしに差し出すと、そのまま……まばたきする間も無く目の前から消えました。あわてて切り株をペタペタしても、そこは当たり前の様に、なんの変哲もないただの切り株でした。


 程無く戻って来た母に、手に持ったそれを見せたらススキの穂。わたしはそれを手渡しながら、さっきまでの不安はどこへやら笑っていました……。




「……というですね、小さい頃の夢をですね、見たんですよ。あ、それ私まだ食べてないです」


 柚子味のお稲荷さんを取ろうとした手を遮る。食べ物の戦いはシビアなんです。そもそも買って来たのは私。


「いや〜、しかしよくよく縁があるんだねー」


 うちの近所の神社で、食べ物じゃない「御稲荷様」と、食べ物の【お稲荷】を頂く。ややこしいけど、間違った事は言ってない。そしてこのお稲荷、何故かスーパーで大安売りだったのです。何種類味があるんだろうか。


「次はこの味かな。人間も色々思い付くよね」


 以前名刺をくれた、溶けていた狐こと、私命名「ぐだり狐」さんは今日も冴えない顔をしている。萌えを押し出す戦略は採用しなかったのかな。


「まぁ、わらわは嫌いではないぞ」


 当たり前の顔して突然出てくる美人狐様。今日も九本の尻尾はせわしない。あそこらだと管轄は誰かのう……なんて言いながらパクパク食べていく。今日もうちの近所は平和なのです。

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