第2話 きつねに

(……あなたの……)


(あなたの……頭の中に直接……語りかけています……)


(あ……あぶ……)




 あぶ……?


 何なんだろう。家でお昼寝していて、まどろんだ頭に聞こえた気がした何か。とりあえず私は夕方の商店街へ買い物に出掛けた。




 常連となった豆腐屋さんが今日はやけにざわざわしていた。何だかお偉いお得意様が来るとかで、油揚げを凄まじい勢いで作ってる。そうだ、【油揚げ】を買わなきゃ……と、私は何故か財布から無意識にお金を出していた。




 コンビニにて新作のホットスナックの香りが私を誘う。小腹を満たせ~。どーれーにーしーよーうかな〜。


(……ごーる……)


 ん……?


(……ごーるでんなチキンを買いなさい……)


 何かが聞こえた気がした後に、私はドーナッツと珈琲に【ごーるでんなお肉】を購入していた。自動ドアが開く時に、まるでそれが正解だという様に店内BGMがロッ○ーのテーマに切り替わった。えいどりあーん!




 朱い鳥居の列をくぐり抜け家路へと向かう。ここ通ると近道なのよね。そして誰かが耳元で喋っている様な感じで声がする。


(買って来た物を捧げるのです)


 いやです。これは私の素敵なおやつです。


(持って来なさい! その美味しいの!)


 耳元で大声出さないで! 思わず辺りを見回しても誰もいない。そして私の目の前には稲荷神社の入口。まさか……。




 一応、御手水で手を清めてから道の端を歩いて境内へ。本堂……の近くのベンチに座ってる女の人が、私に向かってヒラヒラと手を振っている。


「はよう! はよう!」


 ベンチをぱしぱし、耳がぱたぱた、九つもある尻尾が、ぽふんぽふん。あー……まさか。


「わ・ら・わの為に、ご苦労! さぁ……はよう!」


 すごい美人が頭の上の耳をパタンパタンさせて和服姿でヨダレ垂らしてるって、すごい【びじゅある】。この方かー、私をさっきから呼び続けてたのは……。


 コンビニの袋から取り出した【ごーるでんなお肉】も、珈琲やドーナッツも、もさもさと食べられた。口と手が脂でべたべたなお狐様。傾国の美貌が台無しだ。コンビニの紙ナプキンで拭いたげる。境内でお肉はいいのかなと思ってたら、昔はよく気にせず狩りをしてたもんだと返ってくる。


「むふー。馳走になったのう~! わらわは満足じゃ」


 美人さんが笑うと迫力ある。私と違ってモテモテだろうなぁ。と、鼻を動かすと私の鞄を指差す狐美人様。


「お主……一番大事な物を持っておるな……」


 狐の鼻はごまかせないらしい。私は観念して油揚げの包みを出す。ここまで来たらもう全部献上奉納おういえー。


「甘い美味い」


 さっきまでのホットスナックと違って、物凄く丁寧に食べる様は急に威厳と高貴なかほりが。私まで何だか居住まいを正す。ひとしきり食べて、一息ついた後に改まって礼を言われる。腹が減ると雰囲気が壊れるので色々助かった……と。そしてお守り袋を頂いた。霊験あらかただから、家で開ける様にと言われ、その後帰宅した私はいそいそとそれを開ける。


 萌え狐娘のストラップが入っていた。可愛いわらわの【あ・か・し】と達筆な筆文字で書かれていた。微妙に使うのが躊躇われる逸品でした……。

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