第4話「喧嘩だぜ‼」

「はぁー疲れた…もうこんなところ二度と来たくねぇ…」


「それには同意致します。あのような貴族の悪趣味全快の空間は私達にとって毒以外の何物でもありませんからね。」


「ほんとほんと~あんなところに行くぐらいならゴミ溜めに行った方がまし~」


 三人は闇市の会場から出て外の空気を感じた時、張り詰めていたものが緩んだかのように大きく吐息をした。


「それにしても、家族が増えましたね。」


 オルガがグレイスの方を見ながら溜め息交じりに呟いた。


 グレイスは特に何も反応せず黙々と俺の隣を歩いていた。


「何だよ。家族が増えたんだぜ?もっと喜べよ。その方がグレイスも喜ぶだろうが。」


 なーっとグレイスの顔を覗き込む。


 それでもグレイスは対して反応は見せず目を背けただけだった。


「ありゃりゃ?もしかして俺嫌われてる?嫌われてるの?お兄ちゃん悲しくて涙が出てきちゃうよ。」


 しくしくと泣きまねを俺がしていると、オルガが苛立った顔でグレイスの前に立った。


「おい。さっきから何なんだその顔は。ボスが情けをかけてあの場所から外に連れ出してくれただ。感謝はされどそのような態度をとられる筋合いはないぞ。」


 グレイスはオルガの強い物言いに少し顔に恐怖を作ったが、


「そんなの…頼んだ覚え…ない…」


 そう呟いてすぐに顔を逸らした。


「この…‼ラートワ風情が‼」


 オルガは握り拳を作ってグレイスの顔面を下からすくいあげる様に殴った。


「流石にそれはやりすぎじゃないかな~って私は思う~」


 それを隣にいたシャトナが掌で受け止め、更に流れるような動きでオルガの腕を巻き上げ、関節技で腕を固めた。


「く…‼シャトナ、放せ‼この娘はボスを侮辱しているのだ‼」


「放すわけないじゃん。確かにこの子の態度はちょーっといけ好かないところがあるけど~。オルガのあの言葉を聞いてそっちの方がムカついた。何?あのラートワ風情って?私がそう言うの嫌いって知ってて言ったんならこのままこの腕、もぎ取るよ?」


 シャトナが凍てついた声でオルガに言い放った。


「やってみろこの猫が。俺はボスに対する侮辱を行った者に制裁を与えるだけだ。」


 オルガもシャトナを睨みつけながら怒りに満ちた顔をしている。


「はーいはい。そこまでそこまで。喧嘩は別なところでやりなさいな。じゃないとグレイスが怖がってますます俺達と打ち解けるのが長くなっちゃうでしょーが。」


 パンパンと手を叩きながらオフィスは二人の喧嘩を止めた。


「つか、オルガ。お前流石に勘違いも甚だしいぞ?俺は別に怒ってもないし侮辱されたとも思ってねーよ。グレイスを家族にしたのだって元はと言えば下心万歳だったし今も何やらせようか迷ってるし。」


 俺はオルガの事を見上げてその瞳を覗き込むようにして見た。


「俺に対するその姿勢はスゲー嬉しいよ?だけど、さっきまで商品として売られてた女の子に対してそんな態度取るのはちょっと違うと思うぜ?それに、家族に対してマジパンチってのは更にいただけねー。」


 俺は出来るだけグレイスを怖がらせないように彼女を脇に抱えてオルガとの会話を見せないようにした。


「ですが…」


「ですがも何がもねーよ。確かにグレイスの態度には非があったけど、お前の対応は行きすぎだ。よって、グレイスに謝れ。」


 俺はオルガを黙らせて謝罪を言うように言い聞かせた。


 オルガは苦い顔をしてこくりと頷いた。


「ねぇねぇ~ボス~。私頑張った。頑張ったよね~?」


「よしよし。お前が止めてくれなかったら大変な事になってたな。お前のおかげだ。よしよ~し。」


「ふにゃ~」


 オルガの腕を解放したシャトナがすぐ隣にきてすりすりと腕に自分の頬を擦りつけてきたので、いつのも慣れた感じで頭を撫でてあげた。


「グレイス。お前もお前でちょっと正直に言いすぎな?確かにまだあって数十分だし信用できないのも分かるけどな。でも、さっきも言った通りお前は今日から俺達の家族だ。あの背が高いくせにビビりで恐い話をした夜なんかは特に一人でトイレが一人で行けなくなるぐらいのビビり…」


「ボス⁉」


「…っと言いすぎたな。まぁこれからあいつはお前の兄みたいなもんになる。だから仲良くしてくれや。」


 脇に抱えていたグレイスを解放して頭をポンポンと優しく叩いた。


 グレイスは驚いたように目を丸くさて、震える唇で喋った。


「何で…」


「うん?」


「何で私なんか…ラートワの私なんかを買ったの?」


「ん~…金が足りるのがグレイスだけだったってのもあるけど、本音を言うなら直感かな?」


「直感?」


「お前を見た瞬間何かこう、面白くなりそうな予感がしたんだよ。あいつに他には無い何かがあるって思った。だから買った。」


「他には無い何か…」


 グレイスは口の中で反復した後、小さな笑みをもらした。


「お、やっと笑ったな。そうやって笑ってる方が俺は可愛いと思うぜ?」


「―――――っ‼」


 ぷいっとそっぽを向いた後に、グレイスはオルガの方を向いた。


「その…さっきはすいませんでした。」


 グレイスは丁寧に腰を折ってオルガに謝罪した。


 それを見てオルガは驚いた顔をした後、オロオロとし始めて、


「いや、こっちこそ悪かった。お前の事何も分からないのに自分勝手な事を言った。すまなかった。」


 しどろもどろグレイスに謝罪した。


「見てくださいボス。オルガの奴、あんな小さな女の子相手にオロオロしてますよ~。男としてどうなんですかね~あれ。」


「あぁ…我が部下ながらすさまじく情けないな…彼奴の教育をどこで間違ったのやら…」


「全部聞こえてますよ⁉」


 オルガがこっちを向いてツコッミを入れてきたので俺達もボケで返す。そんないつもの騒がしい光景をしていると、


「ふ、ふふ…変なの…」


 グレイスが肩を震わせて笑った。


 三人はそんなグレイスを見て、声を合わせて言った。


「「「そうこそ、メッソーレムに‼」」」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マフィアだけど子供を買ってみた。 @SEG0134

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ