花と少女

七式

花と少女

「お花はね、話しかけてあげるととてもキレイな花を咲かせるのよ」

 花に水をあげながら、そう私に話すお母さんの横顔は優しくて大好きだ。

少し前に楽しそうにお花の世話をするお母さんを見て、私もやりたいとおねだりした。お母さんは嬉しそうな顔をしながら一つの鉢を私にくれた。私はチューリップやコスモスを想像していたのだけれど、切り株から枝が一本伸びる鉢だった。

「私がおばあちゃんから貰ったのよ。ちょうどアナタ位の頃にね」

 お母さんは懐かしそうにその切り株を見つめていたけれど、私はその切り株から花が咲くなんて想像できないでいた。

 それからは毎朝お水をあげて、寝る前にはその日あった事を話した。そうしているとただの切り株も可愛く見えてきて話しかけるのも楽しい。お母さんは教えてくれなかったからどんな花が咲くのかもわからなかったけれど、お母さんが楽しそうにお花の世話をする気持ちはわかる。

 季節が一回りし、花が咲かない切り株と家族になった頃。私は友達と喧嘩をした。始まりはとても小さな事だった。どちらが悪いわけじゃない。いや、どちらも悪かったのかもしれない。けれど私は許してくれない友達に悲しくなって、友達を許せなかった自分にもっと悲しくなった。今まで感じた事のない重い足で私は一人でお家に帰った。帰り道の途中で大きな花が咲いていた。友達と大きなつぼみだからきっと大きな花が咲くねと楽しみにしていたのに。この大きくて綺麗な花も一人で見ても楽しくない。二人でどんな花が咲くのか話していた時が今よりもずっと楽しかったなと思って、さらに足が重く感じた。

 お家に帰るとお母さんがご飯を作っていた。喧嘩した事を知られたくなくて、いつも通りにただいまを言ったつもりだったけれど自分の部屋につくと自分のただいまはいつも通りじゃなかったと気付く。それでもいつも通りにお帰りなさいと言ってくれたお母さんに優しさを感じた。ご飯の時もお話をしている時もお母さんはいつも通りだったけれど「今日はお友達と何をして遊んだの」と今日は聞いてくれないでいた。聞かれていたら我慢してた涙が溢れて、喧嘩をした事を話していたと思う。私が泣いてしまったらまるで友達が悪いみたいだ。お母さんにおやすみなさいを言って私は自分の部屋でいつもの様に切り株に話しかける。お母さんみたいな優しさがあれば友達と喧嘩にならなかったのかなと話しかけると、そうかもしれないねと切り株は答えた様に思った。私は明日友達に謝ろうと思いベッドにもぐったけれどなかなか眠れなかった。

 朝、目覚ましに起こされると不思議な物があった。朝日を浴びる切り株に真っ赤な花が咲いていた。昨日にはつぼみすらなかったのに。その綺麗な花に誘われて近づいてみると、小さな女の子が花の中で眠っていた。花と同じ赤い色のワンピースを着たその女の子は私に気付いたのか、眠たげに体を起こし私に笑顔を向ける。

「おはよう。どうしたの、不思議そうな顔をして」

 女の子も不思議そうに私を見る。

「あなたは妖精さんなの」

「少し違うわ。私はこの花よ。いつもとてもよくしてくれたからね。恩返しがしたくて」

「恩返し」

 花は笑顔で続ける。

「そうよ、恩返し。例えばあなたとお友達を仲直りさせたりね」

「そんな事ができるの」

「ええ、できるわよ」

 花はとても自慢気だ。でも、私は花にこう言うの。

「それはとっても素敵な事だけれど、仲直りは自分でするわ。自分で言ったんだもの、お母さんみたいに優しくなれたら喧嘩しなかったかもって」

 そう言うと花はもっと笑顔になった。

「あなたのお母さんも同じ事を言ったわ。親子ね。それなら恩返しはどうしようかしら」

 仲直りは断ったけれど私は花に一つお願い事をした。お願い事をすると花はありがとうと言って花の中に消えていった。朝ごはんにお母さんに花が咲いた事を話すと「綺麗な花だったでしょ」と笑顔だった。そして、新しい鉢を私にくれた。鉢いっぱいにまあるく葉っぱが生えた鉢だった。どんな花が咲くのだろう、赤い花と友達になれるかな。

 今日、友達に謝ろう。そして二人で話したあの花を一緒に見に行こう。

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花と少女 七式 @nanasiki

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