あなたは夏がスキ?

「……暑いわね」

「……暑いな」

「恋というのは燃え上がる方が良いと言うけれど……ここまで燃え上がっていたら流石に鬱陶しいに違いないわ」

「ああ……そうだな……」

「……ちょっと、そこはいつもみたいに『おいおい朱雀との恋の熱がこの程度なら僕らは今北極点にいるっていうのかい?』って突っ込みなさいよ」

「……全米のクールビズが中止になるぐらいのナイスジョークだな」

「……なんか……ごめんなさい……」

「暑いからな……仕方ない……」

「…………」

「…………」

「……天然の経口補水液があるのだけれど、飲む?」

「朱雀塩はちょっと」

「にしても……こう暑いと服を来ていることさえ無意味に感じて来るわね」

「気持ちは分かるが絶対脱いだら駄目だからな……」

「え? つまり脱げって意味?」

「フリじゃねえよ」

「何を言っているの、まーくんも脱ぐのよ」

「えっ、なんで?」

「あそこ公園があるでしょう、木陰でまぐわいましょう」

「官能小説かな?」

「きっと不浄な旋律も蝉時雨が洗い流してくれるわ」

「官能小説でしたか」


「夏といえば海、プールよね」

「だな……正直人が多いしあんまり行きたいと思わないが……ここまで暑いと流石に泳ぎたい気持ちに駆られてしまうよな」

「うちビニールプールがあるんだけど、泳いでかない?」

「幼稚園児かな?」

「でもこう言っておいてなんだけれど、私も海やプールは遠慮しちゃうわね」

「ん? 何でだよ」

「だって日焼けしちゃうじゃない、紫外線は乙女の大敵なのよ」

「言われてみればこんなに日差しが強いのに全然焼けてないな……やっぱり対策とかケアを怠っていないのか?」

「その為に学園都市第一位の超能力者になったと言っても過言ではないわ」

「超電磁砲も真っ青の動機だな」

「それともあれかしら、まーくんは水着の日焼け跡がお好み?」

「……そういうのが好きじゃないと言えば嘘になるが……」

「安心して頂戴、いま日焼けサロンに予約を入れたから」

「ちょっとコンビニぐらいの感覚で肌焼かないでくれます?」

「これから毎日私の日焼け跡を拝められると思うと興奮するわね」

「コギャルにでもなるつもりか」

「過程をすっ飛ばしてヤマンバギャルになる予定よ」

「ワープ進化かな?」

「ちゃんとルーズソックス履いて、お風呂も週一にするから」

「そうか……日焼け跡どこいった」


「後はそうね……夏祭りとか」

「夏祭りか……小さい頃に学校主催の奴に行ったきりかなあ」

「屋台に並ぶいか焼きとか、何故か魅力的に感じたわよね」

「実際食べると至って普通なんだけどな、あの匂いが犯罪的なんだよ」

「イカ臭いことこの上ないものね」

「悪質な誘導尋問」

「りんご飴とかも、随分と美味しそうに見えたものだったわ」

「ベビーカステラとかもな、どれも食べたかったけど高いからって言って親は買ってくれないんだよな」

「カラーひよこなんて今にして思えば買ってくれなくて当然なのに、どうしてあんなに欲しかったのかしらね」

「そういう意味では露店のくじ引きなんてまさに子供騙しの極みだけどな」

「あら、随分と切り込むのね、何か思い当たる節でもあるのかしら」

「……昔親に強請って引いたらゲームボーイアドバンスが当たってな」

「……喜んで中身を見たら巨大消しゴムだったのね」

「純粋な子供の心を弄ばれたもんだよ」

「大人は汚いと初めて知る瞬間かもしれないわね」


「……そういえば、花火大会もあったわね」

「あったけど……お前何処まで付いてくるつもりなんだ……」

「え? まーくんの家で涼みながらハーゲンダッツを食べるって話だったと思うのだけど……え? やだ嘘……もしかしてスーパーカップだった……?」

「アイスの以前の問題なんですが」

「嘘でしょ……明日は休みだから朝まで桃鉄99年プレイして負けたほうは99年間語尾に『のねん』を付けるって話で盛り上がったじゃない」

「盛り上がってねえし、罰が重すぎるし」

「そういう訳だから、まーくんの家からエロ本見つけるまで帰れま10だから」

「何で十冊以上あること前提なんですかね」

「全543冊の中からまーくん一押しのベスト10を当てに行きます」

「公開処刑」

「……とは言っても、流石に親御さんや妹さんに悪いし、無理強いはしないわ」

「ああいや……それは別にいいんだよ、母親も緋浮美も逢花も今日は遅くまで帰ってこないとか言っていた気がするし」

「え……ほ、本当に……?」

「ただ恥ずかしながら女の子を部屋に入れた経験が無くてな……、だからどうもてなせばいいか分からないってだけの話で……」

「…………どうしよう」

「……? それにしても花火大会……か、こう言っちゃなんだが夏のイベントの中では一番嫌いかもしれないな」

「それは……どうしてなのかしら」

「いや僕の家ってさ、実は花火を見るには結構立地の良い場所にあるんだよ」

「あの河川敷沿いで花火が上がるものね」

「そのせいで毎年家の周りがリア充で囲まれて、なのに一人で花火を見せられて……憂鬱ったらなかったな」

「それは――……でもそれなら良かったわ」

「良かったって――」

「だって今年は、二人で見れるもの」

「へ――」

「二人っきりで、とびっきりの場所で、見れるもの」

「あれ? まさか今日って――」

「もちろん、まーくんが迷惑でないならの話だけれど」

「いや、その……――――違うな、そうじゃない」

「……?」

「こちらこそ、前条朱雀を特等席に招待出来て光栄だよ」

「――! ……ありがとう、でも我儘言ってごめんなさい」

「僕には勿体無かったしな、我儘なお嬢様がいてくれて助かったぐらいだ」

「……嬉しい、じゃあ今日はたくさん我儘を言わせて貰うわね」

「お嬢様のお口に合うアイスは無いかもしれないけどな」

「あら、そんなアイスあるわけがないじゃない」

「?」


「まーくんと一緒に食べるなら、どんなアイスも甘くなるに決まってるもの」

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