纐纈・ソフィア・雪音はあなたがキライ? 6

 発言の意図が分からず、僕は一瞬固まってしまう。

 な、何を言っているんだこいつは……リア充拗らせ過ぎだろ……。

 そもそも突っ込みどころが多過ぎるだろ……大体どうして櫻井は僕と前条朱雀が知り合いの関係なのを知っているんだ……?

 同じクラスの生徒ならまだしも、他クラスの生徒が、しかも(一応は)内密にしている僕達の関係に気づくなど普通は有り得ない……。

 まさか前条瑞玄が関係を引き剥がす為に……? いやしかし……。

 いずれにせよ簡単に口を割る訳にはいかない、探りを入れなければ……。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、お前のその言い方だとまるで僕が前条朱雀と知り合いみたいな言い方に聞こえるんだが?」

「え? 違うのかい? 凄く仲が良いって聞いていたんだけど……」

「おいおい馬鹿言うなよ、前条朱雀なんて藤ヶ丘高校の歴史の中でも三本指に入るレベルの美女だぞ? そんな女と僕が知り合いだなんて冗談が過ぎるぜ」

「そうなのかい? おかしいな……話が食い違っているみたいだ」

「どちらかと言えば容姿端麗に加えてサッカー部のエースにして成績優秀なお前の方が友達であって然るべきだと思うんだが」

「いやいや、そんなに褒められる程俺は立派な人間じゃないよ」


 褒めてんじゃねえよ、皮肉ってんだよ。

 とは言っても、もし学園内でお似合いのカップリングアンケートを取ったら一位は間違いなく櫻井と前条朱雀になるんだろうけどな……。

 事実こいつはそれだけのポテンシャルを有しているし、前条朱雀も口さえ開かなければあれ程深窓の令嬢という言葉が似合う女もいまい。


 ……本当に、何で前条朱雀は僕を選ぼうとするのだろう――


「全く、僕が彼女と知り合いだなんてとんだデマが流れるもんだな、誰から聞いたんだ? そんな疑う価値もない嘘っぱちの情報」

「誰から、という訳でもないんだけど、最近君が前条朱雀さんと一緒に歩いている所を見かけたなんて噂をよく聞いていてね――ほら彼女って愛想は良いけど一線を引いている感じがあるからキッカケが掴めなくてさ」

「そんな噂が現実ならどれだけ嬉しいことか――」


 はいダウト。

 悪いが僕と前条朱雀は部室以外で一緒にいることはまず無い、何故なら何処に行く時もよっぽどでもない限り別ルートか、距離を取って行動しているのだから。

 仮に一緒に歩いていたとしても前条朱雀はその分細心の注意を払っている、つまり意図的に僕達の行動を見ていない限り発覚することはないのだ。

 つまり妙な噂をバラ撒いているのは僕達の関係を知っている者、そうなると必然的に容疑者は絞られてくる訳だが……。


「……というかそれなら前条瑞玄に紹介して貰った方が早くないか? 双子だしお前とは友達なんだろ? 容易に紹介してくれそうなもんだが」

「その通りなんだけどね、でもそれは無理だよ」

「? 何でだよ」


「彼女は血の繋がった妹を売るような真似は絶対しないからね」


「売るって……随分と大袈裟な言い方だな」

「誇張はしていないからね、まあ瑞玄からは姉妹仲が良くないからと言って断られちゃったけど、それが嘘だってぐらい俺だって分かる」

「ふうん……、つうかもしかして櫻井って前条朱雀のことが好きなのか?」

「あはは、確かにあんな綺麗な子にお近づきになれるのが嬉しくないと言えば嘘になるよ、でもそんな下心だけで話をしたいならここまではしない」

「ならどうしてそこまでして前条朱雀に――」


「個人的には、仮初からの脱却かな」


「は?」

「そう言った方が雅継君には伝わりやすいだろう?」

「……厨二病って意味かよ、センスもひねりもない表現だな」

「気を悪くしたならごめん、建前過ぎず、本音過ぎないように表現しようと思ったんだけど……意外に難しいものだね」

「は、はあ……」

「――おっと、もうこんな時間か、友達を待たせているから先に帰るね」

「ん、ああ分かった」

「目的を達成出来なかったのは残念だけど、雅継君とじっくり話せて良かったよ」

「え? お、おう」

「じゃ、またホームルームで」


 そう言って櫻井は爽やかな笑顔を見せると、帰っていくのだった。


「…………何だったんだあいつ」


 まさか腐女子さんチーム歓喜の展開とかじゃないだろうな。


       ◯


「…………」


 帰宅し、自室に戻った僕は椅子に座り天井を仰ぐ。


 ……何かが、おかしい気がする。


 纐纈は國崎会長との交換条件なのだからそこに違和感はない。

 だが……櫻井の行動はどうもそこからは逸脱して動いている気がする、それも國崎会長の陰謀だというならそこまでだが……本当にそうか?

 もし他の力が働いているとしたら、それは非常に良くない。

 功刀の存在もまだ残っているし、全てを対処しないといけないとなると最早僕の手に負えない可能性も……。


「やはり流れが良くない方向に進んでいる……」


 そして間違いなく、校外学習はその流れが本流となる場所。

 先手を取られる前に僕が主導権を握らなければ、最悪の虎尾の時と同じ結末を迎えてしまう可能性だって十二分にある。

 誰かを犠牲にしてでも、確実に相手を潰さなければ……。


「にしたって、方法は思いついてないんだが……あ――――」


 そうボヤいた所で僕は纐纈から受け取ったラブ――USBメモリーをそのままにしていたことを思い出し、制服の胸ポケットからそれを取り出す。


「まあラブレターではないしろ、見て欲しいと言われた以上は見ないとな、それに兆が一にでもラブレターだった時見ないでいるのは失礼だからな!」


 ……ま、ラブレターじゃないんだけどな、USBのラブレターとか数式で愛の告白するのに比べれば洒落っ気がなさ過ぎるしな、ただ京が一が……ね?

 そんな阿呆極まりない自答を繰り返しながらデスクトップにUSBを差し込み、僅かに緊張しながらファイルを開いてみる。


「……何だこれ、HTMLファイル……?」


 何故かたった一つだけ適当な名前の入ったファイルが入っており、不思議に思いながらも取り敢えずダブルクリックをする。

 すると――――


「……これ『赤い部屋』じゃないか……」


 ご存じの方も多いだろう、かつてのフラッシュ全盛期に話題を呼んだホラー系フラッシュサイトである。

 当時は主流でもあったポップアップ広告を題材として作ったモノであり、最後のオチにゾクっとしたものも少なくない筈。


「まあ流石に今更これを見て悲鳴なんざ上げたりしないけど……やっぱりちょっとだけ怖いものはあるな……ちょっとだけだけど」


 そう言いながら最後まで見終わり、ポップアップを消しに掛かろうとする……。

 が、消えたと思えばまたポップアップが出現したではないか。


「……あれ、これってもしかして完全版か……? ヤバいな早く音消さないと結構煩い……って、あ、あれ? あれ?」


 慌てて音量を弄っていると突然画面がブラックアウトし、強制終了してしまう。


「は……ど、どういうことだ……? こんなパターン初めて見たぞ……」


 ま、まさか本当に……? い、いや待て待て落ち着け、これは遊びじゃないか、何をマジになっているんだ僕は――



「お兄様!! お夕食の用意が出来ました!」



「ファアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!」


「お兄様!? どうなされたのですか! ここを開けて下さい!!」

「な、何だ……緋浮美か……し、心配するな妹よ、お兄ちゃんちょっと机の両角に両足の小指を同時にぶつけただけだから……」

「そんな器用な足のぶつけ方を……流石はお兄様です!」

「やだ、こんなに褒められて嬉しくない言葉を貰ったのお兄ちゃん初めて」

「そんなお兄様の為に今日も好物を十品揃えましたので楽しみにしていて下さいね」

「お兄ちゃん破裂しちゃうよお」

「それでは先に下で待っていますので――」

「ああ、すぐに行くよ」


……ふう、焦った……。

 それにしてもなんてタイミングで扉を叩きながら叫ぶんだ我が妹は……マジでちょっと漏れちゃったじゃねえか。


「それにしても纐纈は何でこんな悪戯を……ラブのレターと少しでも思った僕が馬鹿――――いや、待てよ……」


 普通ならここでUSBを引き抜いて捨てるか、纐纈に投げつけ返す所だ。

 だが、あの暗号からも彼女は自分という存在を一枚の皮に包んで見せるような表現をするのを常としている……。


 つまり、それは見られたくなければない程皮は厚くなる筈……。


 そう思うと僕は強制終了させられたデスクトップを再度立ち上げ直し――

 USBに入ったファイルもう一度開いてみる。

 するとそこには――



「……やっぱり、もう一つHTMLファイルが出現してたか」

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