放課
彼女はバレンタインがスキ? 01
●前条朱雀の場合
「まーくん、私、今非常に悩んでいるの」
「ほう、お前が悩み事とは珍しいな」
「何を言っているのかしら、私はいつだって悩める乙女よ、何なら今から全裸になって考える人のモノマネをしてもいいのよ」
「意味の不明さが宇宙規模」
「まーくん、今日が何の日か分かっているのかしら」
「え?――ああ、しっと団がアベック共を粉砕する日だろ」
「そう、バレンタインね、だから私は悩んでいるの」
「……別に大して悩むこともないだろ、好きな人にチョコをあげるそれだけじゃねえか、最近は友チョコこそバレンタインという風潮さえある程気軽なもんだし」
「そんな狗に食わす価値もない馴れ合いはどうでもいいの、大事なのはまーくんにいかなる方法でチョコを渡すのか、それだけよ」
「……さいですか」
「まず何処にチョコを塗りたくるかよね……足もいいと思うのだけれどありきたり過ぎると思わない?」
「固形のチョコ渡すという候補がないことに僕は驚きだよ」
「おっぱいとか唇に塗りたくるのもいいと思うのだけれど、ちょっと王道過ぎる気がして……やっぱり腋なのかしら」
「とりあえず一般教養を身に付ける所から始めよ?」
「はあ……やっぱり眼球にチョコを垂らすしかないのかしら……」
「眼球フェチとか言った覚えないんだけどなー? おかしいなー?」
「ねえ、まーくんは何処がいいかしら、わかめ酒ならぬわかめチョコとか――」
「お願いだからまずチョコを固形にして下さい」
「まあ冗談はこれぐらいにして――」
「絶対冗談じゃないと思うのは気のせいかな」
「じゃん、ハッピーバレンタイン、私の愛を受け取ってくれるかしら」
「って、何だ……ちゃんと作ってるんじゃねえか……お前のことだから本当に自分を塗りたくる以外の選択肢はねえのかと思ったわ」
「まあまーくんが望むのであれば一切の躊躇なくやるつもりだったのだけれど……私が童貞の引き際を見抜けないと思ったら大間違いよ」
「何で怒られてるんだ僕は……いや、何にしても嬉しいよ、ありがとう」
「とびっきり愛を込めて作ったから……味わって食べてね」
「――して、隠し味は」
「血」
「ふざけんな」
●虎尾裕美の場合
「雅継殿~、どうせ今年のバレンタインも一個も貰えていないのでしょう~?」
「冷やかしなら帰ってくれるか、こっちも遊びでゼロやってる訳じゃないんだ」
「なんと……よもやチョコが貰え無さ過ぎて無我の境地に達しているとは……」
「靴箱に画鋲が入っていた僕に比べればチョコなど生温すぎて反吐が出る」
「あ、そういうマジなのはいいんで」
「泣き喚くぞ」
「まあまあそう言わずに、そんな寂しい雅継殿の為に私がこうやってチョコを容易して差し上げましたから、これで今年は0から1に昇級でございますな!」
「せめて二階級特進したかったけどな……で、どんなチョコをくれるんだ? ブラックサンダーか? チロルチョコか? ウイスキーボンボンか?」
「いくら何でもその決めつけは女の子に失礼だと思いますが……確かにお察しの通りブラックサンダーなんですけども」
「『ごえんがあるよ』じゃなかっただけ良かったと思うか……ありがとな」
「流石に友チョコでも五円チョコだったら友情を疑いますが……」
「馬鹿言うな、チョコという名の固形物を貰っているだけでも有難く思うべきだろ」
「闇が深すぎませぬか……」
「まあそんな哀れなメンズを披露させて貰っていますが、実はわたくし、毎年二つは必ず貰っているのですけどね」
「……ん? 一つは母親からなのは分かりますが、はて、もう一つは――」
「正解と言いたいが母さんは仕事で忙しいから貰えたとしても毎年ではないな」
「ですが……そうなるともう他にはいない気がするのですが」
「ふっ、甘いな、僕には愛すべき双子の妹がいるのだよ、眼球と入れ替えても痛くない程に可愛い逢花と緋浮美という妹がな」
「入れ替えてしまったら最早その目で可愛い双子は拝めない気がしますが……」
「特に緋浮美はよく出来過ぎた妹だからな、毎年欠かすことなく自作のチョコレートくれるんだぜ……恥ずかしいのか作っている所は見せてくれないんだが」
「嫌な予感しかしないのですがそれは……因みに逢花殿からは何を?」
「タイキック」
「タイキック」
「毎年ケツを四分割される勢いで蹴られるな、年々蹴りの重みもアップして来ているから、そろそろお兄ちゃんのアナルからバレンタインしそう」
「頭がおかしい」
「――ま、そういう訳だから実はお前で三個目になるんだよ、悪いな」
「何故敗北した気分にさせられているのか分かりませんが…………しかしあれですな、何だかしらけてしまいましたな」
「? 急にどうしたんだよ」
「いやー申し訳ないのですが、そのチョコ返して貰っていい構いませぬか?」
「え、いや何でだよ」
「別にー、意外に充実している感じがつまらないと、そう思っただけであります」
「どういう意味だよ……あ、おい、僕のブラックサンダー……」
「雅継殿は妹のチョコを食べながらケツを蹴られていれば満足なのでありましょう」
「何怒ってるんだよ……」
「……ふーんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます