社会工学の罠。

 わざとビミョーな指示を出し、拒めば制裁、従えば報奨を与える。時には外から分からないように、相手にもそのことを言えないようにして、それを反復・強化していけば、個人や集団を支配できるようになる。

 しかし、それはあくまでも技術であって、政策ではない。そんなやり方で人々を動かしてまで行うべきことなのだ、という正しさの保証まではない。むしろそうした手段に頼るほど、中身がおろそかになる恐れもある。

 技術が進歩・普及すると、経済・社会活動も複雑化・急速化するので、自然科学的な技術と同様に、こうした人文・社会科学的な心理・組織技術も、皆で点検して悪用・誤用を防ぎ善用できるよう、民度の向上が必要です。

 従来のカルト犯罪では武器技術などのほかに、洗脳のような心理技術や、国家を模した組織技術も悪用されました。一般社会でもインターネット犯罪などのほか、特殊詐欺や組織的不祥事が問題となっています。

 作品世界の人々は、幸福な生活に気が緩み、あるいはコンピュータの優秀さに意欲を挫かれて、機械の不調を見逃してしまったのか? 
それともそんな人々を淘汰することが、コンピュータ自身も含めた新しい『人間』の幸福であると、『正しく』判断されてしまったのか?
もしこれが人間の統治組織なら、そういうことは起きないのだろうか?  否。 歴史上、それに近い先例なら沢山ある……。
考えさせる作品でした。