第一章 なんやかんやで村の一員に
歩き始めて一時間、大きな川を見つけてそこから下って三十分、ようやく人工物を見つけることに成功した。
少し遠くに見える丸太の壁。おそらく集落を守る壁だろう。
近づいてみるとその考えを肯定するかのように外堀らしき人工の川と、周囲には畑が見える。
壁がどこまで続いているのか堀をたどっていくと村への入口と、物見櫓が見えた。
「おい! この村に何の用だ!」
物見櫓にいる人、おそらく村の見張り役であろう人が俺に叫んできた。
よかった。言葉は通じるみたいだ。
しかし、ここで困ったことが起きた。
見張り役は俺が理解できる言語で話しかけてきた。だが、この場所はどこだ? 日本にしては明らかに文明が古い。高校の日本史で見た弥生時代の集落みたいだ。俺はタイムスリップしたのか?
何も返さない俺を見かねたのか、見張り役が別の質問を投げかけてきた。
「武器は持っているか?」
武器を持ってない。俺は手のひらを相手に見えるように両手を上げて言った。
「武器なんて持っていないです!」
見張りは訝しげにそれを聞いた。
「そうか。おい! こいつを中に入れてやれ」
見張りが下の階にいるであろう門番にそう言った。
それからすぐに門が開いた。開いた門の先には女性が一人立っていた。
赤髪のツインテールで、少し華奢であるが健康的な体つきで胸とかもいい感じに出ている……ってその情報はいらないか。
「念の為に身体チェックを行います。本当に武器なんて持ってないですよね?」
女性がそう言いながら俺の持ち物をくまなく調べた。
「……本当に武器なんて持ってないのですね。この辺には猛獣や賊がいるっていうのにどうやって身を守ったんですか?」
彼女は不思議そうに俺を見た。
なるほど、武器を持ってないことが逆に怪しまれているのか。
「言っても理解できないと思いますが、自宅から出かける時にいきなり景色が変わって、向こうの方にいたんですよ」
俺は村につく前にいた方向を指差しそう言った。
当然彼女は不思議そうにその方角見て、あそこには集落がないはずなのにと漏らした。
「あなたがなぜあそこにいたのかわかりませんが、この村に危害を加えない者とみなしたので、一度村長に会ってもらいます。そこで、あなたを今後どうするか決めてもらおうと思います。ついてきてください」
彼女はそう言って、村の中へ歩き出した。
「ここが村長の家です。中へ入りましょう」
入ってきた門の道の先にあったほかの家よりも大きな家。その中へ彼女と一緒に入っていく。
「村長、村の外に武器も持ってない怪しいやつを見つけました」
「ご苦労じゃったな、カリンよ。念の為に彼の後ろで見張ってなさい。」
家の奥で座っている老人が言った。彼女――カリンを俺の後ろに下がらせ、俺の顔をじっと見つめた。
「ふむ、敵意がない顔。……いや、まだ心の整理がついてないような顔じゃの。衣服からして王国のものでも、賊のものでもない。お主何者じゃ?」
「学、化嶋学と言います。ここに来る前は日本という国に住んでいました。自宅から学校に向かう時にこちらに来てしまったみたいです」
日本ってわかるだろうか。しかし、説明できることっていったらこういったことしかないしなぁ。
そう思っていると、村長からは思いもよらぬ反応がかえってきた。
「ほう日本か。」
「日本ってわかるんですか?」
意外だった。奇跡的に言葉は通じたが、ここがどこかわからない。タイムスリップで過去の日本にとんだとしても、日本という名前は馴染みがないはずである。
「ちょっと前までここにいたケンって男が日本から来たと言っておってな」
さらに意外だ。俺よりも前にここに来た日本人がいたのか。しかもそのケンってもしかして……。
「
やっぱりだ。行方不明になった先輩だ。
「はい、同じ学校の先輩です」
「そうかい、彼と同じなら素性が少しわからなくても危険じゃなさそうだね。それならお主を客人として認めようじゃないか」
どうやら先輩はこの村に気に入られているみたいだ。
「そうなんですか、よかった」
俺はホッと胸をなでおろした。
「すみません、できれば先輩に会わせて欲しいんですが……」
俺がそう言うと村長の表情が曇り始めた。
「すまない。彼はこの前の山賊の襲撃の時に誘拐されてしまってな。村の仲間が探しに向かっているがまだみつかっておらんのだ……」
なんということか、俺の安全を確保してくれた先輩が誘拐されるなんて。
「不思議なことじゃった。あそこの賊は普段人をさらうようなことをせん。あくまで村の食料や行商人の品物を奪うぐらいしかしない上に、強行な手段をするようなやつらでもないのに……」
「マナブさん、あいつらのアジトは既にわかっています。今私の姉が中を調査していますので、ケンさんがどうなっているのかすぐにわかると思います」
後ろにいるカリンが言った。
しかし、先輩が生きていると言う明確な情報がない以上無事とは言い難い
それを察したのか、カリンはさらに続けた。
「さらにあそこの賊は無益な殺生を行いません。実際、あそこの賊から殺されたという情報は一切入っておりません」
「ですが、先輩が無事という確証はないのでしょう?」
俺は少しヤケ気味に言い放った
失礼ではあったが、そういうしか思いつかなかった。
「そうですな。確かにケンが生きてると言い切れるわけじゃないが、こちらに要求は来ておらん。さらったなら何かしらの要求は来るじゃろうて」
村長が淡々と告げた。つまり生きている可能性は高いということだろう。
「ですが安心はできませんよ。しかもこれを言うのはなんですが、この村が安全とは限りませんし」
村長が怒りそうなことを言ってしまった。だが、我が身可愛いもので、身の安全を保証できないと不安でしかない。
すると、カリンがこう言ってきた。
「でしたら、わたしがあなたをお守りします。姉ほど強くはありませんがこの村では守人として生きていますので、あなたの安全を保証することはできます」
いやいや、男尊女卑と思われてもしょうがないが、女性が守人をやっているって珍しいはずだ。まして、俺よりも圧倒的に華奢に見えるのにどうやって村を守っているというのだろうか。
その考えがお見通しだったのか、彼女はさらにこう続けた。
「この村の住人は火の民と言われ、このように自由自在に炎を生み出すことができます。中でも私はその中でも炎の扱いが上手く、これまで山賊が襲撃してきても、ほぼ姉と私だけでそれを退いて来ました」
そういって右手の平に炎を生み出すカリン。
「そう言っても……って、ええええええぇぇぇぇ!」
初めて見る光景に素直に驚いてしまった。
いやいや、魔法ってどういうこと? どういう原理でそうなってるの?
「流石に驚かれましたか。ケンさん同じように驚いてました」
そりゃあ化学の同じ錬金術から派生したものとはいえ、錬金術とともに現実には存在しないものとなったものを目の前で見せられたらそうなるでしょうに。
「いやいや、だってこんなのありえないでしょ!」
「あなたのいる日本ではありえないことでしょうが、ここではそれが当たり前に起きています」
そうはいってもねぇ。たかだか二十二年生きてても、魔法が無いってことはわかってたんだけどね。
「無理に信じる必要もなかろうて。それより学さん、これからあなたはどうするかい? この村にしばらくおらんか? この村におれば少なくともカリンが守ってあげよう」
村長がそう尋ねてきた。つまり、用心棒付きでこの村にいるか、用心棒も無しに危険な村の外で野営しろと言っていることだ。
「何かウラがありそうですね。ですがああ言ってしまったんですが、この村にいる以外で安全にすごせるところが無いですし、申し訳ありませんが、この村にしばらくの間居させていただきます。」
選択肢はほぼない。が、これで身の安全は確保できた。
「ですが、流石無条件でここに滞在するにはにむしが良すぎる話ですね。村長、ここに居る条件はなんでしょうか?」
「そうじゃな。ケンがいた頃は、ケンが子供たちにいろいろなことを教えてくれよった。わしらが知らないことをいろいろとな。」
「つまり、先輩の代わりを俺が果たせということですね?
「そういうことじゃの。村の子供は多いし手がかるがやってもらおうじゃないか」
つまり、先輩が戻ってきても立場は子供の先生役を続けろってことか。
村長から提示された条件は俺にとってありがたいものだ。
「分かりました。その条件果たしましょう」
この村に住めて、働く先がある。すなわち、村の一員として元いたところに戻る機会を待てるわけだから。
「それじゃあカリン、彼に村を案内してやりなさい」
「承知しました。それではマナブさんこの村を案内します。村長失礼しました」
「ありがとうございます。村長」
そういって俺とカリンは村長の家を後にした。
大学生の俺が異世界に行って魔法を化学したった 春也 @Haruya1002
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。大学生の俺が異世界に行って魔法を化学したったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます