大学生の俺が異世界に行って魔法を化学したった

春也

序章 神隠し

 あなたは別世界に行きたいと思ったことはないだろうか。

 あ、どうも俺です。……じゃなかった、化島 学かとう まなぶです。

 化学科の大学三年生、遊びだけど元野球サークルの部員で学籍番号は……言わなくていいか。

 見ての通りいたって普通の大学生だ。まぁ、ほかの人と違うところを強いて言えば、ちょっと大食いくらいかな? 大学祭の企画で大食いコンテストに出たら、主催者から「お前が優勝でいいから、これ以上は食わないでくれ!」と言われてしまった。

 そんな俺ももうすぐで四年生。桜が咲く前に大学から研究室の紹介がある。ということで今大学に向かっていたところだ。

 正直言って、俺は研究室をまだ迷っている。

 俺の大学の化学科には無機化学系、有機化学系、物理化学系、分析化学系の大きく四種類に分野分けされ、各分野にいくつもの研究室がある。

 ほかの大学では工業化学や生物化学といった分野もあるみたいだが、その話はいいだろう。

 その中で、高校生の時から好きだった無機化学系の研究室に行くのか。それとも、天才と呼ばれた先輩と、俺の憧れの教授がいる有機化学系の研究室、どちらに行けばいいのか迷っている。

 だから、研究室紹介に行き、その迷いを解消させるはずだった。

 そう、そのはずだったのに……。

 今、俺が見ている景色は一面緑色。いや、壁とかが緑色じゃないぞ? 自然いっぱいという意味でだ。

 思い出せ、ついさっきまで俺はマンションのエレベーターから降りたばかりじゃないか。

 別に緑の壁なんかない、むしろ薄橙色うすだいだいいろの普通のマンションだったはず。

 そういえば、ここ最近俺の大学の学生が複数人、しかも一人ずつ行方不明になっていた噂があったな。あの先輩もその事件に巻き込まれたとか。警察も捜索しているけど何もわかってないらしい。

 まさか、俺もそれに巻き込まれているんじゃないのか?

 マジか。研究室紹介の後、友達と新しくできた焼き鳥屋に行く予定だったのに……。

 いやいや、今はそういう問題じゃない。もっと周りを見なければ。

 結構木が生い茂っているな。時期が時期だから、花粉症の人はキツそうだな。

 って、そういうことを見るんじゃない! もっと有用なことを考えるんだ。

 時間はどうかな? ……うーむ、朝早く出たはずだけど、太陽が結構高いな。お昼頃ってとこか。

 そういえば、俺の田舎もこんな感じだったよな。懐かしいな。

 ん? そういえば、あんまり気にならなかったけど、ここちょっと傾いているな。山の麓あたりか?

 なら早いとこ移動しないと。夜だと明かりがないと怖いからな。熊や猪なんか夜だと見えないし、襲われたらひとたまりもない。

 幸い荷物があるから、そこからスマホを取り出せば当分の明かりになるけど。

 それでも、やっぱ怖いな。ここから離れたくはないけど、動かなきゃもっと危ない。

 川があれば飲み水は確保できそうだし、もしかしたら村があるかもしれない。

 そう思って、俺は人と川を求め、山を降り始めた。

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