第11話 もしかしたら存在していたかもしれない物語

 彼女達のもしかしたら存在していたかもしれない物語はこれで終わる。

 何故なら、これ以上はサルベージが困難だからだ。

 まず、僕が何者かという話からしたほうが良かったのかもしれないが、こうして先に彼女達の物語を知ってもらうのが急務だと判断しテキストファイルを送信した次第だ。


 僕は、あなたたちの種が滅び去ってしまった後の星を買い取った者だ。


 名前は………きっとあなたたちが発音できるとは思えないので、控えさせてもらう。

 後、数百年で星自体も滅びを迎えるということで酷い安値―――そりゃあ、もう、引くぐらいの激安な値段―――で販売されていた星を僕は買い取った。

 惑星販売業者からは訝しげな目で見られたが別に構わなかった。


 僕は死に場所を探していた。

 それも、一人っきりで死んで逝ける場所を。

 どうやら、僕は不治の病を患っていたらしく、余命幾許もないらしかった。

 それなら、最期の残り少ない時間ぐらいは自分の道楽のために使おうと会社を辞め出たあまり多いとは言えない退職金を星購入と痛み止め、気持ち程度の食料に使い僕は住み慣れた星を後にした。


 到着した僕は綺麗なまま残っていた前時代的な―――古き良き時代とも言う―――建物を住処にし、そこを人生最期の場所と決めた。

 そんなときだった。

 彼女と出会ったのは。

 彼女はかなり強力な精神生命体で僕の住処に決めた建物に佇んでいた。

 どうやら、遣り残したことがあるらしい。

 僕達の文明ではこうした精神生命体自体は確認されていたが、殆ど見る機会がなかった。はっきりとした形で見るのは初めてだ。


 だから僕は興味半分で彼女の願いを叶える手伝いをすることにした。


 彼女の願いはたった一つ。

 自分がここに確かに存在したという事実を証明すること。


 僕は乗ってきた船に積み込まれていた残留思念検索機を用いて―――彼女の手伝いのもと―――彼女にまつわる事件の一つをテキストファイルにノベル方式でまとめた。

 あまりに古い残留思念のために一つ一つがバラバラに構成されてしまったのは、残念だが致し方あるまい。

 とにかく、形に残すことが大事なのだ。

 僕は出来上がった文書を時空変換可否判断機―――通称、ラプラスの悪魔に読み込ませ過去に送信可能かどうかを調べ、可と出たのを確認すると時空転送機にて過去方向に転送した。

 彼女はそれを見届けると満足そうに微笑んで消えて逝った。


 僕はこの作業の後遺症で、送信したテキストに登場する人物と自分との境が判断できなくなってきている。

 僕は凛花ちゃんなのかもしれないし、稜ちゃんなのかもしれないし、夢ちゃんなのかもしれないし、儚ちゃんなのかもしれない。

 ひょっとすると近藤君だったのかもしれない。

 これは、非常にまずい自体だ。

 間も無く僕は緩やかな自壊を迎えるだろう。

 だが、と僕は思う。

 この星には輪廻転生、という考え方があるらしい。

 人間に宿る魂は常に廻り続け、生まれ変わりを繰り返すという思想が。

 ならば、終わりの果てに―――僕の書いたテキストを読んでくれた誰かと出会うことができるのではないか、と思いを馳せてしまうのだ。

 これは、すばらしい考えだと僕は思う。

 視界が霞む。

 時間が来たようだ。

 命の終焉を迎える時が。

 僕はゆっくりと目を閉じる。

 どうか、あなたに出会えますようにと祈って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もしかしたら存在していたかもしれない物語。 ごんべえ @0831

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ