第2話 殺し
僕はネットの記事の内容に惹かれていた。馬鹿馬鹿しいと分かっていたのに、
「非日常」という三文字が頭から離れなかった。不思議な高揚感に包まれた
僕は、すぐに家を出る準備をした。黒いボストンバッグに衣類と全く使うことの無かったお年玉が入った財布を突っ込み、護身用のペーパーナイフを入れた。
ふと思った。家を出て、どこに行く。そう思った僕は考えた。機械的な15年間で
脳は完全に冷静な考えを見出すことが出来なくなっていた。僕は、最も選ぶべきではない行き先を選択したのだ。ただ「非日常」を求めて。
取りあえず荷物の入ったカバンを布団の近くに置き、今日は休むことにした。布団に入ってから眠りにつくまでの短い間、僕の頭の中には期待と恐怖が入り混じった複雑な感情でいっぱいだった。
ブブブブ…あの鬱陶しいバイブレーションだ。鬱陶しい事に変わりはなかったが、僕自信は大きく変化していた。あの憂鬱だった朝が、こんなにも清々しかった事など一度もなかった。僕は制服ではなく私服に着替え、誰も起きていないのを確認し家を出た。
僕は駅に向かっていた。僕の行き先は、ここから4つ先の駅まで行くと着く街だった。街の名は「スキノ」風俗店や麻薬密売の拠点となるバーなどがそこかしこにある
街だった。中国人の客引きが不慣れな日本語で男性を誘っているような街だ。
そんな最悪な街こそが、僕の理想の「非日常」だった。
駅に着くと僕は足が付かないようにカードは使わず切符を使いゲートを通った。
地下へ降りるとまもなく地下鉄が轟音を立てながらホームに着いた。僕は足早に
車内に入り込むと、端に座った。何も考えず4つ、駅から駅へと移動した。
「スキノ」に着くと、思っていたのとは真逆の光景だった。何故ならまだ午前
の10時。昼前から客引きなんてしてたら救いようがない。僕は街を散策する事にした。すると、駅周辺とは明らかに空気が変わったことに気がついた。親に隠し事がバレた時の様な張り詰めた空気だった。だが、不思議と怖くはなかった。
街を散策しながら、自分が思い描いた「非日常」とは大きく異なっていた「スキノ」
僕が退屈し始めていた時、若い男が声を掛けてきた。「美味い話があるんだが、聞いてみないか?」僕は何時の時代のドラマだと思い唇を噛みながら笑いを堪えた。
せっかく「非日常」への招待が来たんだ。乗る以外に手はない。そう思った僕は無言で頷いた。「よし決まりだな。ついて来い、ここじゃあマズい。」男は足早に近くの汚いビルへと僕を連れて行った。
「まず、話をする前にお前に言っておく事がある。お前に拒否権はない。逃げようものならあの入り口の近くに居る二人に殺される。」僕はかつて無い恐怖感に襲われた。やってしまった。僕の頭の中を弱音が支配した。が、僕はすぐに立ち直ってしまった。なんだろうとやってやるよ。そう心の中で僕じゃない何かが呟いだ。
「美味い話ってのは?」僕が尋ねる。「よし、やる気はあるみたいだな。決まりだ。
仕事の内容は殺しだ。スキノのトップが運営する風俗店に売り飛ばすはずだったが体に目立つ傷があってな。使い物にならない。逃がすわけにも行かない。俺らが手を汚すわけにも行かない。そこで身代わりが必要だった。報酬は10万 女は好きにしていいが必ず殺せ」
そう言うと男は刃渡り100mm程のドスを僕に渡した。僕は状況を飲み込めないまま引くに引けなくなっていた。僕はこれで首の頸動脈を切り裂き人を。それも女性を殺さなければいけない。大量の汗が僕を包み込んだ。
整理がつかない内に男は黒い扉を指差しこう言った。「あの部屋に女がいる。犯した後殺してもいいし殺した後犯してもいい。好きにしろ。15分後見に行くからそれまでに済ませろ。」僕は震える足に力を入れなんとか立ち上がると、黒い扉へと進んだ。
恐る恐る扉を開けるとそこにはコスプレをした少女が座っていた。目にはアイマスクを付けられ、手足はイスに縛られていた。イスの後ろには小さな窓があり、そこから差し込む光が少女の影を作っていた。
少女は所謂ゴスロリの格好をしていた。しかし、コスプレとは思えない程似合っていた。コスプレらしさが無かったのだ。あまりにもその姿が似合っていた少女に、僕は
この一瞬で見惚れてしまった。
僕の頭を支配していた殺意とも恐怖とも興奮とも取れない感情が一気に消え失せ、
ただ「殺したくない」そう思った。僕は手に持ったドスを強く握る。もう10分しか
残された時間はない。もう後には戻ることが出来なかった。
可愛い子と逃亡生活するお話 @Kurorekishi_Kakutei
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