第13話 視線

「博士、ついにやりましたね」


「ああ、実験成功だ」


 とある研究所の博士とその助手はさっそく世間に自分たちの研究成果を発表した。するとたちまち国中にそのニュースが駆け巡り、二人はすぐさま記者会見を開く事となった。


「えーっと、つまりどういう事ですか?」


 会見の場で記者の一人から質問が飛ぶ。


「つまり我々人類の視線にはごくわずかですが電磁波に近いエネルギーを発している事が分かりました。よく誰かの視線を感じるなんて事がありませんか? それは本当に体が他人の視線のエネルギーを感じていたのです。その他にもよくスポーツなんかでアイコンタクトという言葉があります。それも視線から発するエネルギー同士がぶつかる事によって脳に直接相手の考えが伝わるようになっていたのです。スポーツ以外でも目と目があって恋に落ちたり、喧嘩に発展したりと様々な働きをしていると思われます」


 博士の言葉に記者たちは驚いた。


「この視線のエネルギーというのは何か体に悪い影響は無いのでしょうか?」


「今の所は無いと思います。そもそも視線のエネルギーは本当に微量の力なので日常生活に影響は無いものと考えています。他に質問はありませんか? なければこれで会見を終わりたいと思います」


 博士のその言葉で会見は終了した。


 ようやく一段落といった具合に博士と助手は互いの苦労を労いあった。


 しかし、記者会見の直後から全国で体の調子を訴える人が続出した。何でも今までは気にならなかった他人の視線が気になるようになり、それで体に変調をきたしたという。


 さっそく二人は政府から対応を求められた。


「どうしよう。困ったな」

「困りましたね」

「まさかこんな事になるとは。本来なら感じる事もままならない力なのに、人の思い込みというのは凄いな」

「これがプラシーボ効果というやつですかね。しかしどうしましょう我々も発見したばかりでこのエネルギーのことをよく知りませんからね」

「うーん……」


 二人は対応に困っていたが、博士にあるアイディアが浮かんだ。


「本当に大丈夫なんですか?」

「分からんがとにかくこれで行くしかない」


 博士はそう言うと政府に自分の考えを伝えた。


 次の日のニュースで政府から国民にサングラスの装着の義務が伝えられた。


 瞬く間に全国民がサングラスを装着するようになり、お年寄りから赤ちゃんに至るまでサングラスをするようになった。街に出れば右を見ても左を見ても皆サングラスをしている。


 そのかいもあってか体に変調をきたす人は減っていった。


 だがまたしても問題が起きる。視力の問題である。朝だろうが夜だろうが暗い場所だろうが一日中サングラスを装着しているものだから全国のあちこちで視力が悪くなったという報告が相次いだ。


 これに困った政府はまたしても二人に対応を求めた。


「困ったな」

「困りましたね」

「視力の問題なんて我々より眼科の権威に聞いたほうがいいのにな」

「そうですよね。どうしましょう」


 またしても難問を突き付けられた二人はどうするか悩んでいたが、博士がまたしても「私にいいアイディアがある」と言い出した。


「本当に大丈夫なんですか? ばれたら大変な事になりますよ」

「大丈夫ばれやせんよ。それに国民は単純だからすぐに信じ込むだろう」


 そう言うと博士はすぐに政府に考えを伝えた。


 次の日のニュースで視線のエネルギーを出さず、なおかつブロックする新薬が開発されたという発表があった。その薬は全国の薬局やコンビニでも売られるようになり、サングラスを装着する人の数はあっという間に元に戻った。


「ふぅ……ようやく研究に励めるな」

「しかしあんな成分で視線のエネルギーを抑えられるとは思えませんが?」


 助手は不思議そうに博士に尋ねる。


「なに、単純な事だよ。元々プラーシボ効果で視線のエネルギーを敏感に感じていただけだから、それを逆用すれば感じなくなるという訳さ。あの薬も何の効果もないただの栄養剤みたいなものだからな。そんな事よりもっと研究を進めなくては」


 そう言うと博士たちはまた研究に没頭するようになった。


 世界中で博士たちと一緒に研究を行いたいという声が上がりその調整で一から実験を見直していた助手がある事に気づく。


「博士、大変です。データーの入力値が間違っていました」

「何だと? ということは……」

「はい、視線のエネルギーは観測できないという事です」

「じゃあ、あの結果は間違いで実験は失敗していたという事か?」

「はい。そうなります」


 博士は急に目の前が暗くなるのを感じながらよろめくように後ろの座席にもたれこんだ。。


「どうしましょう?」


 助手の顔は顔面蒼白だ。


「とにかく今は黙っておくしかない。その間に実験を成功させなくては」


 こうして博士と助手は一心不乱に実験を続けたが遂に成功する事はなく、世間に自分たちの実験が失敗だったと伝わる事になった。


 そのニュースは瞬く間に全国を駆け巡り怒りの声が各地で上がった。


「お前らのせいで視力が悪くなったぞ」


「何の効果もない薬を売りつけやがって金を返せ」


 国民の声は日に日に増していき博士たちは謝罪会見を開く事になった。


「このたびは誠にすいませんでした」


「ふざけんな。責任とれよ」

 

 もの凄い数のカメラのフラッシュやシャッター音とともに怒号のような罵声が会見場を包む。


 博士たちの前には記者やカメラマン、政府関係者、被害者の会の代表等がずらりと並んでいるが、その者達全員の目には怒りがこもっている。


 博士たちは只々謝る事しか出来ず、ずっと頭を下げている。


 まだ怒号が続いている中、博士は隣で一緒に頭を下げている助手に向かって小声で尋ねる。


「君、本当に我々の実験は失敗していたのかね?」


「はい。確かに失敗していました」


「じゃあ、どうして皆の視線がこんなに突き刺さるように痛いのかね?」


 


 


 


 


 

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ショートケーキ(仮) ジャック孟玩 @jack1223

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