エキストラフェイズ

オームラ

『エキストラ』

 意味:余分な。臨時の。

 ダブルクロス(TRPG)内においては『データ化されていない存在』『宣言だけでどうにかできる存在』という意味もある。


 を襲った衝撃は大きく、そのままの意識は闇に埋没する。

 力在る者が放つ強い一撃。稲妻と音で強化された者達が、人形と影の腕で攻めてくる。私はそれを避けることができず、倒れ伏した。

 深い深い闇の中、私は自らの行動を反芻する。

 この地の者を守りたい。力による蹂躙から身を守るには、力を得るしかない。故にこの地に住む者に力を与えようとした。

 それは誤りだったのだろう。

 はこの街の鎮守として、人間の趨勢を見てきた。

 多くの闘いがあった。多くの愚行があった。

 同時に多くの営みがあり、多くの善行があった。

 それはけしてが関与した事ではない。それらを為してきたのは、生きた人間達なのだ。

 それを今更介入するなど、おこがましい。この地のことは人間に任せ、は土地の神として人間の趨勢を変わらず見続けるのが筋だったのだ。

 だが、の過ちを正す者がいた。それは言ってしまえばただの結果論で、その者達はの心をくみ取ったわけではない。

 だが、それでいい。はただ勘違いし、暴走し、そして消えていく愚かな存在だ。

 惜しむべくは、この闇の中では、これから、あの地の者を、見ることができない、事だ。

 だが、問題は、ない。多くの人間が、いるの、だか、ら。

 このまま、闇に、消えるのは、当然の、罰、だ。


「あたしは男の顔と名前を覚える珍妙な風習はないけど」


 そんなの耳に声が聞こえる。


「このショタは確かに『解放者リベレイション』ね」

「うむ。レネゲイトの波動も一致する。可能ならブラッドリーディングあたりで確認してほしいが……そんな顔をしないでほしい。君が女性以外の体液を舐めたくないのはわかっている」

「で、生きてるの?」

「レネゲイトビーイングに死の概念があるかはともかく、生死どちらかと言われれば生きていることになる」

「何よそのもって回した言い方。あたしが頭悪いと思って馬鹿にしてるの! 捻じるわよ!」

「捻じりながら言うな! ノー! ノー暴力!」


 若い女性と、機械的な音声。

 ああ、覚えている。この声は、が最後に相手した者の声だ。


「先ず誤解のないように言っておくと、『解放者』は間違いなく死んだ。ここに寝ているのは、同じこの地の『鎮守』だが、『解放者』とは別物だ」

「……どういうこと?」

「『鎮守』とはこの地を守る神のようなものだ。あの『解放者』はその伝承がオーヴァード化したという『影』のような存在だ。影を倒しても、本体である『鎮守』が消えてなくなるわけではない。

 新たに『鎮守』がオーヴァード化したのなら、こういう事もあるのだろう」


 …………? 何の話をしているのだろうか?


「何よそれ。何度死んでも蘇りまくり? 便利なのね、レネゲイトビーイングって」

「そうでもない。これは『兄弟』のようなものだ。全く同じ形の別個体と思ってくれ。同じ『親』から派生した別の存在だ」

「ふーん……」


 どうやら二人はに関して話をしているらしい。

 しかしどういう事だろうか? 『解放者』とを分けているようだ。


「じゃあ、また『解放者アレ』のようなジャームになるの?」

「可能性はある。だが、そうでない可能性もある。面倒と思うなら、今ここで潰してもいいだろう。今ならさほど苦労はしない」

「んー。……二人はどう思うの?」


 声が増える。女性の声が二つ。

 かつてが力を与えた事がある少女の声。

 二人の意見が聴けるのは、僥倖だ。二人には大きく迷惑をかけた。断罪されるのなら、受け入れよう。


「私は……複雑だけど、あの時力を貰ってなかったらと思うと邪険にもできないわ」

「そうね。意図はどうあれ、一歩を踏み出すきっかけになったのは確かね」

「じゃああたしもいいわ。ジャームじゃないなら殺す理由もないし」

「了解だ。それでは――」


 まるで稲妻に打たれたかのような激しい衝撃。それにより、の意識は光を取り戻す。

 はどうやら仰向けになって寝ていたようだ。見下ろすようにを見る少女三人と、その一人が持っている携帯電話。


「久しぶり。いい夢見れた?」

「初めまして、じゃないの? 別の存在みたいだし」

「私達の事は覚えていますか?」


 少女達の問いに、頷く

 どうやら彼女達は、に恨みを持っていないようだ。


「同じ『鎮守』からの派生だ。どこか繫がりがあったのだろう」

「ああもう。これが金髪幼女なら育ててみようという気も起きたのに!」

「……いや、させないから。少女だったらエロ村には触らせないから」

「警察呼ばないといけないもんね。――ねえ、お名前は何て言うのかしら?」


 名前。その言葉を聞いて、は首をかしげる。

 個人を示す名前という事は知っている。だけど名で呼ばれたことは――


「――オームラ」

「亜紀子君、いきなり何を……」

「この神社、大村神社っていうんでしょう。だったらオームラよ」

「何それ? 大雑把にもほどがあるわよ……って何?」

「その名前、気に入ってるみたいよ」


 大村。大きな村。

 人々が集まり、大集落になる。そんな意味を込められた名。

 それはが望んだ姿だ。人が集まり、生活し、日常を過ごす。

 自身が潰してしまいそうになったことだけど。

 今度こそ道を踏み外さないように、その名を受けよう。


 今日もは、静かに街を見守っている。

 時折、街でおきた非日常の情報をよこせとあの少女達がやってくることもある。それもまた日常なのだろう。


 昨日と同じ今日。今日と同じ明日。

 だが、世界は確かに変貌していた。

 それでも人は、強く逞しく生きていく――

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Mind Liberation どくどく @dokudoku

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