狐と狼

黒崎 真琴

第壱幕 出会い

 伊賀の隠れ里(今での三重県伊賀市)、九尾雷丸は両親と離れて暮らしている。そして、独り立ちということで里を出て、京の都(今での京都)に行くことになった。

「じゃあ、行ってくるよ。兄貴」

「ああ、両親に会わない様にな。特に、真田一族の親父には」

「わかってる」

雷丸は疾風に別れを告げて、里を出た。


 都に行く道中、雷丸は両親の姿を見つけた。

(なんで、親父達が!?)

雷丸は木の上に身を隠した。

(親父達も京の都に行くのか?)

すると、母親の安陪清子と目が合った。清子は気づき、笑顔で返答した。

(母さん……)

その笑顔を見た雷丸は引き寄せられるように、笑顔で返した。

「どうした?」

夫の真田信村が清子を訊ねる。

「猫よ。野良猫」

「そうか」

清子は信村にそう言った。

(母さん……)

雷丸は改めて、母親の優しさを知った。


 京の都に両親より早く着いた雷丸は、都を散策していた。

「賑やかで人が多いな。里とは大違いだ」

散策途中、雷丸はある寺を見つけた。

(壬生寺?)

雷丸は壬生寺の中に入っていった。すると、木刀を持った人が素振りをしていた。

(誰だ?)

「そこにいるのは誰だ?」

木刀を持っている人が素振りをやめて、雷丸の元へやって来た。

「えっと……」

「見かけない顔だな。どこから来た?」

「伊賀からです」

(左構えなんだ。俺と同じだ)

「一君どうしたの?」

建物の奥から人がやって来た。

「総司」

「んっ?この子、一君の知り合い?」

「いや、違う」

「そ。僕は沖田総司。君は?」

沖田は雷丸に自己紹介をした。

「俺は九尾雷丸」

雷丸は二人に自己紹介をした。

「ほら、一君も」

「斎藤一だ。宜しく頼む」

斎藤も自己紹介をした。

「何してんだ?」

奥からまた人がやって来た。

「土方さん、この子ですよ。霧風さんが言ってた子は」

(んっ?こいつ兄貴のこと知ってる……兄貴の知り合いなのかな?)

「弟が来るって言ってたな。あんたがそうか?」

「はい……」

「浪士組副長、土方歳三だ。お前、名前は?」

「九尾雷丸です」

雷丸は土方に対して、敬語で返答した。

「これから九尾の身は浪士組が預かるからな。わかったな?」

「まあ、何かあったら壬生寺の所に来たらいいよ」

雷丸は頭が回らなかった。一つ、解ったことはこの人たちが雷丸の新しい家族だということだ。でも、まだ雷丸は知らなかった。この後自分の身が変わることを……

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