私の一振りっ!

大和 新和

プロローグ

向いてない


―――キィンッ―――



 バットが白球をとらえた音。

 レフト方向にグングン伸びる打球。それを見てこの俺、「竜崎 塁りゅうざき るい」は一塁方向に走り出した。



 ―――9回裏で2対3。1点を追う場面。ツーアウト、ランナー2、3塁。

 一打逆転サヨナラのチャンス。そこで代打、竜崎。


 絶対やってやる、絶対打ってやる。そう思って打席に向かった。


 中学3年間、友達と遊ぶ時間も削って野球の練習に当てた。上手くなりたかったから、レギュラーになりたかったから。野球が好きだったから……結局、補欠だったけど。

 でもこうやってチャンスが回ってきた。絶対にモノにする。―――



 二年前だったら内野の頭を超えるのが精いっぱいだった打球があんなところにまで飛んでいる。これも毎日欠かさずやった素振りの成果なのかな、なんて思ったり。

 芯で捉えた打球だ。自分でも会心の一打だと思った。



 だけど、敵チームのレフトは全く動かなかった。

 そしてレフトはその位置で左手にはめたグローブを上にあげて―――



 ―――あっさりとボールはそのグローブに吸い込まれてしまった。


 ゲームセット。3対4で俺たちの負け。

 チームメイトはみんな泣いていた。そりゃそうさ、中学3年間の部活が終わってしまったんだから。悔しいだろう、みんなも俺も。

 

 でも、俺は泣けなかった。

 何もできなかった自分には泣くことなんて許されない。そう思ったから。

 

 努力が実を結ばなかったどうこうの話じゃない。俺にはまず、才能がなかったんだ。上手くなれると思ってあんなに練習してたけど、バカみたいだな俺。意味なんてなかったのに。



 ハァ、と小さくため息をついて一言、俺はポツリと呟いた。



「野球は、俺には向いてない。」



俺は、野球を避けるようになった。


 

 

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私の一振りっ! 大和 新和 @yamato_sinwa

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