姉系幼馴染1



俺には、幼馴染がいる。

2つ年上の、姉の様な存在だ。


だから、中学の時は1年しか同じ学校に居られなかったし、高校生になってもまた同様で、俺が高校2年生になった今、その人は大学1年生なのだ。


小さな時から、愛情表現の激しい人だった。俺が高校1年生の時も、お互い16歳と18歳だというのに躊躇無く抱擁してくるのには閉口したが、中学の時には羞恥から反発したその無償の愛に、最近はまぁ……ある程度は受け入れられる様になったと思う。人前では拒絶しているが。


俺に実の姉は居ないが、居たらこんな感じなのだろうな。と何度も思った。彼女に対して感じる感情、すなわち反発、感謝、羞恥_______それらは、母親に対して抱くそれと大差が無かったのだから。


優しく、明るく、前向きで、その上自分より年上の無敵な彼女に、だからこそ心配なんて全くしていなかったのだ。何の問題も無く大学を卒業して、就職して、笑顔で誰かと結婚して幸せに暮らして________そんな人生を歩むのだろうと、勝手に、無根拠に、信じ切っていた。



だから、彼女が俯いて重く暗いため息を吐いた時、只事では無いと思ったのだ。



******


学校から帰ると、家に彼女がいた。

俺の家と隣の彼女の家は、親同士が元々知り合いで、そのおかげで良く子供を預け合ったりしているせいで、俺より先に産まれた彼女は、やはり俺が産まれるより前からこの家に入り浸っている。



高校の頃から彼女の両親が共働きになった為か、彼女はかなりの頻度で家に来るようになり、夕飯を共にする事も多い。


彼女の母親がこの歳になってパートを入れたのも、彼女の大学受験の為にという事らしいのだが、俺も俺の両親も、そういった事情が無くても彼女が家に来る事を拒む事は無いだろう。


彼女も申し訳無さがあるのか、それとも生来の性格故か、出来る限り夕飯を作るのを手伝っていたし、皿洗いなどは絶対に自分がやると言っていた。



「あっ、おかえり!」

「ただいま」


彼女はリビングのソファーの端に座って難しい顔をして携帯をイジっていたが、俺が帰ってくると顔を上げて笑いかけてきた。


母は買い物に行っているのか、彼女以外に家には誰もいなかった。



そこからは何時も通りに、俺が2階の自室に上がってカバンを置き、制服を脱いで部屋着に着替えたタイミングで、部屋の戸がノックされる。


「あぁ、いいよ」


「えへへ、お邪魔しまーす」


という声がして、彼女がニコニコしながら部屋に入ってくる。


「やぁやぁ、どうだいっ?高校二年生は!」


「それなりだな。新しい友達も出来たし……っていうかこの質問何回目?」


「ふふ、お姉ちゃんは弟分がちゃんと楽しく学校生活を送れてるか心配なのさ〜」


あくまでも陽気に会話を仕掛けてくる彼女。

自分ではお姉ちゃんなどと自称しているが、もう俺のほうが30センチくらい背が高いし、大げさな身振りを加えて話す様は、控えめに言って幼稚園生のようだ。


小さな頃は、この根拠の無い自信満々な様子に敬服し、素直に「お姉ちゃん」と慕っていたが、成長するにつれ段々と姉貴分として頼る事は無くなった。

今では、年の近い家族として良い関係を築けているはずだ。


あちらはあちらで、「お姉ちゃん」を譲る気は無いようだけど。



「んで、そう言うそっちの大学生活はどう?」


「んー、大変だねぇ……レポート、論文、課題……興味ある授業取れるのは嬉しいけど……」


「友達は出来た?サークルとかは入ってんの?」


「うん、出来たよ。サークルも、一応入った」




やっぱり、「そこ」か

いつもの彼女なら、こういう事を聞かれたら嬉々として自分が今どれだけ楽しい場所にいるかを語った後、「ほら!君も2年後には来るんだよ!」と言って来るはずだ。


しかし、大学の話題を出された途端、見るからにトーンダウンして、人間関係の話題を出されたら、今度はあからさまに何でもない振りをしてやり過ごそうとしている。


そして、ここから「へぇ、どんなサークルなの?」なんて問いかけられる前に__________。



「あ、そうそう!6月の最初にさ!久々にバーベキューでもしようよ!お花見の時はウチの両親が休み取れなかったから……今度こそっ!て2人とも意気込んでるんだ」



ほら、話題を逸らして来た。

バカ。もうどれだけ長い付き合いなんだよ。


「あのさ」

「ん、なになに?」


何か辛い事隠してるなんて、バレバレなんだよ。

何か辛い事があるなら、どうして、どうして素直に打ち明けてくれないんだ。

人の事は散々心配しておきながら!





「大学で、何かあっただろ」


だから俺は_____________。



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