クール系幼馴染3

 

※誠に勝手ながら、エピソードタイトルと内容が噛み合っていないと判断したため改題させて頂きました。


******


 かくして日曜日、私は極度の緊張の所為か、いつもよりも格段に早く起き___6時だ。ちなみにいつもは7時_____、そわそわと準備をする羽目になったのだった。

 楽しみな気持ちなんて、欠片もない。ただ今日一日を無難に過ごせれば、それで良い。


まずは風呂だ。

昨日の夜に入ったが、念のためもう一度入っておこう。リンスも、いつもより少しだけ大目に使ってみる。

体を洗う時も、少し強く擦ってみた。


ゆっくり湯船に入りたいところだけど、一晩放置された水はお湯と呼べるほどの温度を保っていてはくれなかった。


シャワーで軽く体を流し、風呂を出る。

髪をしっかりと拭いて、体の水気を取って、新しい下着を履く。

その上に着る服は、地味過ぎず、派手すぎず。

数少ない外出用の服から、最も無難な物を選んだ。


膝下までのデニムのスカートに、淡いピンクのシャツ。その上からは白のカーディガン。

カチューシャは……調子に乗り過ぎかな。


うん、これなら「もう5月なのに春っぽい服着てる残念な奴」に見られるな。それでいい、それでいいんだ。

ドタキャンしたい気持ちはあるが、さすがにそんな明確に敵対するのはマズイ。

そう、とにかく今日を無難に乗り切れば良いのだ。


大丈夫、また明日からは平穏な日々が戻って……


「おーーーいっ!!来ーたーぞー!!早くいこーぜ―!」


……戻ってきて、欲しいなぁ。



******



その後、騒がしい響を流しつつ待ち合わせ場所に向かうと、すでに全員揃っていた。

「おっ、響ぃー!……と、京堂さん!よくぞお越しくださいました!」

「わぁっ!ほんとに来てくれたんだ!酒見君ナイスぅ!」

「やったぜ!」


男どもが囃し立ててくる。はぁ。ここで無視してもメンドクサイだけね。


「えっと……今日はよろしく」

こんな感じに「私クラスメイトと遊ぶの初めてなんです~」みたいな雰囲気出し続けてればそのうち飽きて構わなくなるわよね。


「おぉ~っ!ゆみっちってば相変わらず可愛いねぇ!」

「ふっふっふ……なかなか良いではないですか」

「……っち」


…………「ゆみっち」!?何でそんないきなりフレンドリーなのよ!?

逆に怖いわよもう……。葛城さんは相変わらず剣呑な雰囲気だし。


「あはは……よろしく」


「おっし!じゃあ行こうぜー!」

「「「おぉー!」」」


響の音頭に、私と葛城さん以外が答えて、私たち一行は進む。

 

******


「さぁーてー、最初は誰から歌うのかなー!」

名前も知らない葛城さんの取り巻きAが明るく問う。私は絶対に嫌だけど。


「おっ、じゃあ俺が一番で良いか?」

と、響が手を上げる。

と、同時に素早く曲を選んで、機械へ送信する。

曲が始まりイントロが流れる。マイクを握って、息を吸って、


響が、歌いだす。

私は、耳を塞ぐ。


******


歌い始めて三時間。

部屋は盛り上がりの頂点にあった。

最初は渋面された響の大音量歌唱も、今では盛り上げに拍車をかけている。なんであんな大きな声で正しい音程出せるんだあいつ。


私はというと、基本的に目立たないようにひっそりしていて、たまに「どうしても!」と振られた時に乏しいレパートリーの曲を不快に思われないように歌うだけだった。


つまらない。


楽しくないだけでは無く、自分にマイナスが降りかかるのを回避して0にしなければならない。

嫌われないように。疎まれないように。

細心の注意を払わなければならない。


しかし、その努力は報われそうに無かった。


理由は、隣に座っているのが葛城さんで、反対側は壁だということだ。しかも、椅子がU字型に配置されていたなら救いはあったかもしれないが、机を挟んで二列が向かい合わせになっている並びだ。机と席の感覚も狭く、席を立つたびに足を引いてもらわなければならない。

下手をすれば、葛城さんにぶつかってしまうかもしれない。


そして、その葛城さんはというと、他の皆とは積極的に言葉を交わしているが、露骨に私を見ないどころか視界に入れないようにしているのか、不自然なまでに首をこちらに向けない。ありがたいけど。


たまに私が歌うと、不機嫌そうにそっぽを向いて、目が合ってしまうという事故が起こった時には、顔をしかめてすぐに明後日の方を向いてしまった。ここまで嫌われると、何もしてないのに謝りたくなる。





事件が起こったのは残り一時間を過ぎた頃だった。

なるべく立たないようにする為に我慢していたトイレだったが、流石に限界なのでなるべく素早く葛城さんの前を通り過ぎる。


個室に入り鍵を閉め、腰を下ろすと深い溜息が出た。

疲れた。もういっそ、このままここにいようか。

しかし、不審に思われるのも嫌なので、それなりの時間で立ち上がる。


手を洗って廊下へ出ると、葛城さんが立っていた。


えっ!?どうして?個室はもう1つ空いていたはずだから、私が個室を塞いでいたせいでイラついているなんて事は無いはず……。


なら何故?


その疑問は、彼女が私と目を合わせて話しかけてきた事によって解決された。


「あのさ、話があるんだけど」


心臓がドキリと跳ねた。

脳みそが酸素を失ったようになり、思考能力が凍結する。


手足が重くなる。急に全身が冷たくなり、それなのに汗が噴き出している。

今すぐトイレにUターンして嘔吐したい。


「ちょっとこっち、来てよ」


そう言って彼女は、廊下の端の方へ歩き出す。

人目の付きにくい場所。

2人きり。


嫌だ、嫌だ!


心ではグルグルとそう思っているのに、私の手足にマリオネットの糸が付いたように、私の首に首輪と紐が繋がれた様に、ただ彼女の後に着いて行く。


再び彼女と相対する。

やっぱり顔をしかめている。

そして、葛城さんが口を開く。


「……あのさ、酒見君とはどういう関係?」


ほら来た、何人に言われたか分からないお決まりの文句。だから私も、いつも通りに返事をする。


「別に。ただ家が隣ってだけ」


「そう。じゃあ付き合ってるとかじゃないんだ」


「うん、全く」


「じゃあさ________」


さぁ、次に来る言葉は何だろう。

酒見君に近づかないで?

調子乗るなよ根暗女?

明日から学校に来ないで?


それとも、今まで言われた事の無い言葉?





「……じゃあさ、その、私と……私と、付き合ってよ」



???

どもりながら顔を赤くした葛城さんに言われた言葉が、私の頭の中で反芻される。


どういう意味??

響と付き合いたいから手伝えって事?


「えっと……どういう……意味?」


「どう……って、そういう、意味。私と、付き合ってほしい」


「……葛城さんと、誰が?」


「……京堂さんと、私が」


??????

えっと、待って。理解が追い付かない。

葛城さんは「私と付き合って」と言った。そして、もじもじと恥ずかしそうにしていて、顔を赤くしている。以上の事から、これは、つまり、その


「愛の告白……?」


「……うん」


「あの、気を悪くしないでほしいんだけど、葛城さんって……ソッチの人?」


「ううん、違うの!こんなの、京堂さんだけで、今まで誰も好きになった事なんて無かったのに、京堂さんの事、一目見た時からずっとずっと好きで、その、綺麗な髪とか、物静かな……その、深窓の令嬢みたいな雰囲気と、その、……全部に恋しちゃって」


????????

頭にクエスチョンマークが止まらない。

もしかして、嘘告白かもと思ったけど、これが演技なら彼女は世紀の大女優だろう。

何より、響に話しかけられた時のような寒気と鬱陶しさが、全身を這い回っている。葛城さんが吐露している思いは、本物なのだろう。

…………でも、だとしたら何故。


「あの、じゃあ教室で時々睨みつけてきたのは……?」


「あ、ばれてたんだ……その、どうしても我慢できなくて、見ちゃってた。でも我慢しようとして、怖い顔、してたかも」


「響と話したりした時に舌打ちしてたのは……」


「……幼馴染という立場を利用して貴女に近づくあのチャラ男が許せなかったから」


……あほらし。

結局、全部全部私の勘違いだったんだ。


「お、ここにいたか……その様子だと葛城ぃ、お前抜け駆けしただろ」


「うっさい!あんたなんかに渡すもんか!京堂さんは私と付き合うの!」


「はぁ!?いやいやいや、結実は渡さねーから。もう婚約までしてますー」


結局、私はこのバカ幼馴染に振り回されて、人生メチャクチャにされて。


「そんなのどうせ幼稚園の時でしょ!というか気軽に名前で呼んでんじゃないわよ!!」


「へっへーん!!結実暦15年の俺様に許された特権ですー!」


「くっ……まぁ、私と京堂さんの歴史はここから100年続いていくし?あんたはそのまま過去に縛られてれば良いんじゃない?」


平穏な日常を送れると思ったら、またしてもバカに壊されて、ついでにバカが増えて。


「はぁー!?いーやいやいや、揺り篭は一緒になれなかったけどこっから先は一生一緒に居るから、お前の入る隙はありませんー」


「バカ言ってんじゃないわよ、法律変えて同性同士で結婚できるようにして京堂さんと結婚してやるんだから!」


いつもいつも、自分勝手な私への好意が、私を苛んで、苦しめて。

だから、私は…………!!



「あんたら二人とも嫌いよバカーーーーーー!!」




人生で初めて、大声を出した。









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