クール系幼馴染2
※誠に勝手ながら、エピソードタイトルと内容が噛み合っていないと判断したため改題させていただきました。
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今日は疲れた。
家に帰ってまず最初に思ったのはそれだった。
響の奴め、面倒くさい事をしてくれたな。
去年一年は奴と違うクラスだったからイジメられたりしなかったけど、今年は事情が違う。同じ学校で、同じクラスなのだ。
そして、1人になりたい私に、奴が話しかけてくる。奴に好意を寄せている女子から私が恨まれる。
結局、中学の時と何も変わらないじゃないか。
どうすれば良いのだ私は。
大学は、天地がひっくり返っても奴が入ってこれないような偏差値の場所へ行くとして、始まったばかりの高校2年生と、その先の高校3年生を、どう過ごせば良い?
また、迫害され続けなければならない?
どうして私はそんな目に遭わなければならない?
部屋の隅で片膝を抱えて、考える。
今頃あいつは、クラスメイトと、異性と、楽しく遊んでいるのだろうか。
自分の領域に逃げ帰って、独りで縮こまっている幼馴染の事を、どう思っているのだろうか。
どうして。どうして私は、私の関係無い所のいざこざのせいで、こんなに嫌な思いをしなければならないのか。
あいつを怒鳴りたいけど、あいつは何も悪くないというのが腹が立つ。
私に危害を加えてくる奴を直接怒鳴ればいいのだろうけど、そんな元気は無い。
あいつの女子からの人気が、イコール私への悪意になるという異常事態に、私はほとほと疲れ果てていた。
その時。
コンコンと、窓を叩く音がした。
ここは二階だ。
「……っ!」
私は一瞬、ホラーな展開を予想する。
しかし、よくよく考えてみたらこの家は道路に面していない。
この窓の向こうには、隣家があるのみなのだ。
この窓を叩くには、私の家の敷地に入らなくてはならない。
つまり、この窓の向こうに居る者が死者であろうと、生者であろうと、相手は不法侵入者なのだ。
なんだ、怖くない怖くない。
窓を開けて怒鳴りつけてやれば良いんだ。
ガンバレ、私。
そう思ってかき分けたカーテンの向こう。
ガラスの向こうに一番に見えたモノは、棒だった。恐らく物干し竿。
そして、ガラスを割らない様に慎重に力加減を調節して、窓を鳴らすその棒の先に居た者は。
「…………何やってんのアンタ」
私の幼馴染、酒見響だった。
返事が無いのに不審を覚えるが、奴が口をパクパクさせているのを見てこちらの窓が開いていないことを思い出した。
そして、こちらに音声が届かない事に気付いたらしく、奴は口を閉じて、物干し竿を室内にしまって…………?謎のハンドサインを送ってきた。
手を、左右に振って……あぁ、窓を開けろと。
私は手で大きく×を作ってやる。
すると奴は両手を合わせて必死に頼むジェスチャーをする。
何か重要な用でもあるのだろうか。
仕方なく窓を開けてやる。
「何か用でもあるの?」
すると奴は、またもやハンドサインを送ってくる。
さっきと同じ様だが、さっきより手の振りが小刻みで、奴は体を乗り出して、窓のレールに足を掛けて……っ!
「今からそっちに跳ぶから退け」という意味かっ!
私が意味を理解するのと、奴が飛ぶのは同時だった。
私が身体を隠すのと、奴が飛び移ってきたのも同時だった。
衝撃。壁に人体が軽くぶつかる音。
奴が壁を蹴って私の部屋の窓から侵入してくるのと私が
「何やってんのよ!!」
と叫ぶのも同時だった。
「よっ」
そして一番最後に、彼の気抜けた声が部屋に虚しく響いた。
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「なんなのよまったく……」
騒動の後、何とか落ち着きを取り戻し、そのまま私の部屋のクッションを一つ、我が物顔で占有している幼馴染に、悪態を吐き捨てる。
「いやぁ、ちょっと会いたくなってさぁ」
あっけらかんと笑いながら言う響に、キュンと来るなんてことは無い。が、怒る気が削がれてしまったのもまた事実だ。
ドヤ顔で小動物の死骸を咥えてきた猫を見かけたような、とても気の抜ける感情。
「最近、話せてないなぁって思ってさ」
「さっき学校で話したばっかでしょ」
そういう事じゃないのは解っているけれど、こいつには言える限りの嫌味を言ってやらねば気が済まない。
「そんな寂しい事言うなよ〜……あ、そうだ。今度の日曜空いてるか?」
「?……まぁ、一応」
答えてから気づく。こういう輩が日曜や休日の予定を訪ねてくる時。それは……!
「じゃあさ、今度こそクラスの奴等と遊びに行こうぜ!」
「イヤだ」
即答。しかしそれも、所詮苦し紛れの抵抗だ。
「なんだよー。予定無いんじゃなかったのかよー」
拗ねたように唇を尖らせて、子供みたく文句を言う。
そんな幼馴染に、私は訳を話してやる。
「私、女子から嫌われてるみたいだから」
「えっ」
響は驚いたような声を上げる。まぁそうだろう。こいつはそういう事とは無縁に生きてきたのだから。
「えーと、……例えば誰だ?」
だから、こんなデリカシーの無い質問を投げつけてくるのだろう。
「……葛城さん」
「葛城って……リン?」
葛城鈴(かつらぎ りん)。今の私のクラスの、女子グループのボス。
気が強くて、いつも率先してアタシを睨みつけてくる奴だ。
取り巻き達も、ニヤニヤヒソヒソと、不快感溢れる輩ばかりだ。
とは言ったものの、客観的に見れば、美人でオシャレなうえに芯のある性格なので、男女ともに人気のある人物であると言えよう。
正直、響にピッタリの女子だと思う。だから、早く二人の仲が進展すれば良いのに。と、いつも思っている。
と、ここまで考えてクラスの嫌な奴と、幼馴染の恋路を応援しているという新たな異常事態に気付く。本当に何なのだ、私の高校生活は。
「……一応聞くけどさ、何かされたのか?」
「直接的には、何も。時々睨みつけられたり、通りがかりに、私に親でも殺されたみたいな顔で舌打ちされるくらい。」
そんな程度のものだけど、交流のない人間にそんな態度を取られるのは精神的にキツイ。しかも、取り巻き達のクスクス声がセットなのだ。
「へぇ……っく……ぷっ……っははははは!ダメだ我慢できねぇ!これは面白いわ!!」
はぁ!?こいつ、人が真剣に悩んでるっていうのに笑い出しやがった!
そんな人間では無いと思っていたが、そこまで落ちぶれたのかお前!!
「笑ってんじゃないわよこの馬鹿ぁ!!」
「はははは、いやっ……くっ……いや、何でもないんだ……なぁ結実、やっぱ日曜日、来いよ。ってか来い」
「何言ってんのよ馬鹿!どうして今の話の流れでそうなんのよ!……っていうか帰りなさいよもう!!」
何が面白いのか、未だ肩を震わせるこいつに、ありったけの暴言を吐きつけてやる。
「分かった分かった、今日はもう帰るよ。それじゃ、日曜日。11時くらいに迎えに来るから。じゃっ!」
「あ、ちょっと、……行かないから!」
話ながら再び窓枠から身を乗り出し、自室へ帰ってく響に声を投げつける。
が、帰って来たのは
「まぁまぁ、そう言わずにさ!じゃな!」
振り返った響の、丸め込むような笑顔だった。
……何なのよ、もう。
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