マイペース系幼馴染 2
***
「次はどこ行く?」
開園から1時間。
園内を適当にブラブラして、目についたアトラクションに待ち時間無く乗る事3回。
4つ目はどうしようか。
キョロキョロと辺りを見渡してみる。何か良いアトラクションは無いか……?
「おっ」
面白そうなものを見つけたぞ。
お化け屋敷だ。
何々……?「例年より進化した平坂絶恐屋敷、今夏に先駆け期間限定オープン!」
おどろおどろしいアトラクションにも関わらず、爽やかな宣伝だ。
「なぁ、次はあそこ行ってみないか」
と、件のお化け屋敷を指差す。
「え……?」
久しぶりに聞いた、素っ頓狂な声と表情。
これだ、この顔が見たかった。
散々に振り回してくれたお礼だ。
「あの、私、お化けとかそういうの無理……」
「知ってる」
今度は俺がこいつの手を引いて、お化け屋敷へ連行する。
なんだ、手、繋げるじゃないか。
***
宣伝文句のせいか、1ペアごとの案内だからか、今までとは違い少しだけ列が出来ている。
そして、アトラクションの中からは老若男女色とりどりの悲鳴が聞こえてくる。
いつもはこいつが苦手だから寄り付かないが、このお化け屋敷は毎年怖いと少し有名だ。
自分の苦手な、しかも怖いと有名なお化け屋敷で、中から聞こえてくる悲鳴を聞きながら、自分の順番を待つというのはどんな気持ちだろうか。
どんな気持ちかは分からないが、ひたすら無言でいて、悲鳴が聞こえる度にソワソワしているのは確かだ。
徐々に、徐々に、アトラクションの仄暗い入口へ近づく度に、絞首台への13階段を1段ずつ登るような、そんな感覚だろうか。
良いぞ、もっと怖がれ。
食べ物の恨みは恐ろしいと世間は言うが、睡眠を邪魔された俺の恨みの深さも侮ってもらっては困る。
「次の方、どうぞー」
俺たちを中へと促す従業員は鬼か悪魔か、こいつの目にどう見えているかはともかく、俺たちは共に絞首台から飛び降りた。
***
二つ、分かった事がある。
一つは、こいつの胸が意外と大きいということ。
案の定こいつは怖がって、俺の袖にしがみついて俯いて震えていた。
そして、大袈裟な音と共に何かしらのお化けが襲ってくる度に、やはり大袈裟に怖がっていた。
そして問題は、しばらくお化けが襲って来ず、こいつも目を開けたタイミングで突然目の前に生首が降ってきた時だった。
「いやーーっっ!!」
何を思ったか、急に抱きついてきたのだ。
俺は絶叫しながら、無言で抱きつかれた事に戸惑いつつ急に押し付けられた体の柔らかさにドギマギしていた。
二つ目。
俺は、お化け屋敷が、苦手だ。
今までこいつが苦手だったから避けてきたのだが、そのせいで俺自身もお化け屋敷に入った事が無かった。
それ故に、俺は自分がお化け屋敷が苦手であるという事を知らずに飛び込んでしまい、数々の情けない悲鳴を上げてしまったのだ。
隣にいるこいつが終始無言で震えていたのに対して、俺は「いやーーっっ!!」だの「ちょっ、無理っ!無理っ!!もう出るーーっ!!!」など、高校生男子としてあるまじき悲鳴を上げまくっていた。
死にてえ。
「私、お化け屋敷克服したかも」
そうかい。
「今日の事を思い出せば、どんなお化け屋敷も笑いながら攻略できそう」
震えてたのはそういう事かよチクショー!!
ドヤ顔でピースしやがってっ!!!
***
「……んで、次はどこ行く」
「ん……ゆっくり出来るとこかな」
ふと時計を見ると、13時46分。
そういえば、朝から何も食べていない。
そのとき鳴った「ぐぅー」という空腹を知らせる音の出所は、俺かこいつか。
丁度良く側にレストランがあるので、早足で入る。
少々値段は高いが、この際知ったこっちゃ無い。
そんなに人は並んでいなかったが、前の人が料理を受け取ってカウンターの前を去ったところで二人して突撃する。
「「オムライス下さい大盛りで!」」
***
こうして無事に昼飯にありつけた俺たちは、一時の休息を得る。
この世に生を受けて15年と数ヶ月、この遊園地に来るのも何度目か分からない。
小学生の時、中学生の時、親や祖父母に連れられて来た際に「いったい何を頼めばたくさん食べられるか?」を研究した結果、オムライスが最も量が多いという結論に辿り着いた。
普通のオムライスは、なだらかな曲線を描いたラグビーボールの様な形だが、この遊園地のオムライスは完全な半球なのだ。しかも、直径は片手のパーと同じくらい。
大盛りにするとその直径が1.3倍ほど広がる。
中身も中々乙なもので、ケチャップライスの具にはチョリソーのような、若干スパイスの効いたソーセージ、ピーマンが粗く切られて入っていて、そこにコーンが入る。
卵も大きさの割りに厚く、意図せず破けるということが無い。
値段はやや高いとはいえ、この量と味なら大満足である。
「ふぅ……食べたな」
「ん……ごちそうさま」
***
「さて次のアトラクションは……と言いたい所だが少し休まないか」
「賛成……」
14時10分。3杯目のお冷やを前に、俺達は大きくため息をついた。
考えてみれば、朝早くに叩き起こされてから歩きっぱなしの立ちっぱなしで、座ったのはジェットコースターに乗っている時くらいだった。
そこに、恐らく500gは下らないだろう米飯を胃袋に叩き込んだのだから、動けなくなるのは当然だ。むしろこのまま昼寝したい。
しかし残念ながら、対面に座ってる女の子はそうはさせてくれないようだ。
「ねぇ、ぶっちゃけどうなの?」
「何が」
「女」
「は?」
「高校入ってから女子との接触率高いみたいだから」
「そうは言っても休み時間に話したり、授業でグループ組んだりするくらいだぞ」
「でも中学の頃からは絶対多い」
なんだ、今日はやけに噛みついてくるぞ。
嫉妬なのだろうか?
いや、もしかしたら単に幼馴染の恋愛事情に茶々を入れたいだけなのだろうか。
「んで、結局誰なの?」
「だから何が」
「……誰を狙ってるの?」
「は?」
は?
「やっぱり一番おっぱい大きい丸山さん?それとも露出の多い亜紀?同じ掲示係で背の低い佐々木ちゃん?それとも______」
「いや、誰も狙ってねーよ」
その中では、と心の中で付け加える。
「えっ」
「さすがにまだ誰と付き合うとかそんな事は思ってない」
「そう……なんだ」
「あぁ」
……気まずい沈黙。
「さすがにそこまでの度胸は無いんだね」
「うるせえ」
***
「よーし、そろそろラストスパート行こう?」
「はいよ」
まだ日は高いが、早くに来たのでそろそろ帰りたい。足も疲れたし。
帰りはバスだな……。
「あ、そうだ」
不意に、前を歩いていた彼女が振り返る
「最後に観覧車乗ろ?」
「おう」
全てが終わった後に思い返してみれば、この何気無いやり取りが俺達の運命を決定したのかもしれない。
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