ここ掘れ

 子犬を散歩に連れて行くと、かならず、コンビニの駐車場の同じ場所に坐り込む。

 声をかけても、つなを引っ張っても、なかなか動かない。


 地中に何か埋まっているのだろうか。そうならば、それはどのようなものか。

 お宝だろうか。石油だろうか。それとも温泉か。

 散歩を繰り返す中で妄想が膨らみ、その場所を掘ってみたいと、私は思うようになった。


 しかし、舗装されていたし、他人の土地だったので、勝手に掘るわけにはいかなかった。

 また、地主に声をかけたところで、相手にしてくれるわけがなかった。

 掘るとしたら、土地を自分のものにするしかなかった。

 そのための金がほしいと仕事に励むうちに、サラリーマンのままではむりだと悟り、私は独立した。

 そして、成功した。



 犬が老犬になったころ、私は土地を手に入れた。

 さっそく、自分でショベルカーを動かし、地面を掘りすすめた。

 しかし、いくら掘っても、何も出て来なかった。あたりまえである。

 私は車から降りて、穴をのぞきこんでいる犬を抱きかかえて、声をかけた。

「なにもなかったな。しかし、おかげで私は手に入れたよ。自分の会社と自分の土地を」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る