web作家はこうして成功する

あふひ みわ

【ホラー】『web作家はこうして成功する』

  ある日、こんなツイッターを見つけた。

 

 ――『カクヨムの大賞に応募した。入賞したら賞金をみんなに山分けしてやんよ』――

 スマートフォンを持つ手に思わず力が入った。早速、この著者のページへアクセスする。

 アクセス数――100,000

 ツイッターを見た人達がこぞってアクセスしたのだろう。こんなに沢山いたんじゃ山分けされたとしても一人あたりの金額はしれている。これからも増えていくだろうし…。

 それから数日後、今度はこんなツイッターが上がった。

 ――『アクセス数が増えすぎて山分けできなくなった。レビューを書いてくれた人に山分けするよ。但し、先着十人様までw』――

 最後の『w』が馬鹿にしているのか、或いは浮かれているのか…あまり良い感触ではなかったけれどとりあえずレビューを書いてみようか。

 すぐに著者のページへアクセスした。幸い、レビューの数はまだ『先着』に達してはいない。早速レビューを書く。

 が、作品は長編だ。最後まで読んでいる間に『先着順』にもれてしまう。

 いいや。どうせみんな真面目に読んでなんかいない。とにかくアクセスした形跡だけ残しておけばいい。読んだふりだけしておけばカクヨムの担当者だって分からないんだから。

 面倒だけれど一通りアクセスしていく。勿論、全く目を通さない訳ではない。特に最初と最後の章は念入りに目を通した。

 レビューを書く頃には五人上がっていた。

 適当に褒めて、もっともらしい感想を加えて…こういう評論は得意なのは、普段、理屈や薀蓄(うんちく)をする事を好んでいるせいかな。

 漸(ようや)く書き上げてアップする。自分で丁度十人目。なんとかエントリーに入った、

 それから数日、著者のアクセスは伸びない。レビューも十人以上は増えていないようだった。

 当たり前だ。みんな作品が読みたいんじゃない。

 賞金の山分けが欲しいのだから。

 そしてとうとう最終審査の結果発表があった。幸運にもこの著者の作品が大賞をとった。

 レビューを書いた人間はみんなわくわくしている。

 連日、著者のツイッターにフォロワーからメッセージが入っていた。

 ――『山分けマダー?』

 ――『100万なら一人10万か。何に使おうかな♪』

 ――『おい、釣りじゃねーだろうな?』

 釣りに決まってるだろ?と内心思いながらも、みんなどこかで期待している。入賞賞金の山分けを。

 後日、著者はツイッターから姿を消した。

 ……なんだ、やっぱり釣りじゃん……

 なんだか馬鹿馬鹿しくなってきたが、釣られたのは自分だけではない。そう思う事でこの馬鹿な行為を忘れる事にした。

 が、それで終わりではなかった。

 某有名掲示板サイトに著者が晒されたのだ。どうやら自分の近所に住んでいるらしい。

 ああ、もしかするとあの子かな。小学校の頃、作文だけは抜群に上手い子がいたっけ。

 確かその子は家を出ずに、今も実家暮らしをしていると聞いた。

 顔も名前も知っている。いや、知っているなんてものではない。同じクラスだった。著者にとっても忘れる事などないだろう。

 ――『カクヨム入賞おめでとう。私の事、知ってるよね?レビューまで書いてあげたんだから。山分けいつ?楽しみにしてるよ』――

 そんなメモをその子の家に入れてみた。


 俺は今、最高の恐怖に震えている。

 適当に書いた小説をとあるサイトの大賞に応募してみたものの、全くアクセス数が伸びない。ツイッターで宣伝してみた。軽い気持ちからだった。

 ――『カクヨムの大賞に応募した。入賞したら賞金をみんなに山分けしてやんよ』――

 そうしたら一気にアクセスが10万を超えた。だがアクセスだけ伸びてもレビューがないとつまらない。

 ――『アクセス数が増えすぎて山分けできなくなった。レビューを書いてくれた人に山分けするよ。先着十名までなw』――

 その日の内に、十人分のレビューが付いた。だがそれ以降伸びないまま結果発表の日を迎えた。

 入賞なんて半分諦めていたが、こういう奇跡は起こるものだ。いや違う。奇跡は自分で招いたのだ。これも実力の内だ。

 俺は笑いが止まらなかった。山分けなんて釣りに決まってるじゃん。第一、どこに振り込むんだよ。それ以前に、俺の事なんて誰も知らない。ペンネームだけで素性が知られる筈がない。

 うきうきしながら賞金が振り込まれるのを待つ日々…。ツイッターにあれこれ書いてくる馬鹿なやつがいたが、無視して退会した。これでもう煩いやつらの声を聴く事もない。

「所詮は、お前らは俺の大金稼ぎの駒にしかすぎない。一生そんな生活やってろよ」

 パソコンの前で笑いが漏れる。これでもう馬鹿にするやつはいない。俺は成功者で、こいつらは敗者なのだから。

 これから俺の作品が出版されて、映画やアニメ化されて、もしかするとあの可愛い声優とよろしく出来るかもしれないな。

 そんな夢想を描くのは楽しい。

 扉を叩く音。いつも決まった時間…朝九時と夜の九時。母親がパートから帰ってきたみたいだ。

「ただいま…晩御飯、ここに置いておくわね」

 判で押した様な言葉。毎日毎日繰り返される言葉。

 扉を開ける。盆の上にはカレーライスとペットボトルの水、コップが添えられていた。それを手に取ろうとした時、一通の封筒が添えられている事に気付く。

 可愛いらしいキャラクターの柄だ。

「早速ファンレターかな。情報が早いって」

 にやにやしながら開封する。

 ――『『カクヨム入賞おめでとう。私の事、知ってるよね?レビューまで書いてあげたんだから。山分けいつ?楽しみにしてるよ』――

「……!」

 ……なんだよこれ。なんで知られてるんだよ!……

 晒されたんだ…!そう悟った。だがもう五年以上も引き籠っている為に、今の俺を知る者はいない。それだけが幸いだ。高校の頃からずっと引き籠っていれば顔の形も、また体型も随分変わるものだ。

 数日後、また封筒が添えられていた。怖いが見ずにはいられない。

 ――『ねえ、私の事知ってるでしょう?小学校の時、作文に書いてくれたじゃない。…不幸な不幸な女の子のお話を。あの時、作文の最後に書いてくれてたよね?…でも僕は、この女の子を幸せにしたいです……って。幸せにしてくれるでしょう?』――

 ぞくりと背筋が寒くなった。

 彼女の家は貧乏で、だけど作文が上手くて、特に感想文のような評論文は小学生とは思えない程の筆力を持っていた。その年の夏休み明け、彼女は読書感想文コンクールで入賞して学校内外でもてはやされていた。

 それが気に食わなかった俺は、彼女の事をおおしろ可笑しく作文に書いたら、クラスで大ウケした。その作文はある新聞社の人の目に留まって新聞に掲載された。勿論、作文に出てくる彼女は偽名だ。だが、知っている人には分かる。有頂天になり毎日が楽しかった。学校内で尊敬されていた彼女は一気に笑いものになった。

 文章の力はなんて素晴らしいのだろう!俺は勝ったんだ!

 彼女はそれから引っ越して、以来、誰も姿を見た者はいなかった。

「なんで…あいつが俺の事を……」

 震える指先から封筒が落ちた。久しぶりに見た母の前に白いワンピースを着た、長い黒髪の少女が青白い目で俺を見ている。

「ゆっくりして行ってね」

 母親はそれだけ言うと俺と彼女だけを残して扉を閉めた……。


 ある日、こんなツイッターを見つけた。

 ――『『カクヨムの大賞に応募した。入賞したら賞金をみんなに山分けしてやんよ』――


                『web作家はこうして成功する】【完】

 

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