鳴く鳥と吠える犬

「ワウォーン! ワウォーン!」


 夜の静寂に響く声。

 とある森の奥深く、少し小高い丘の上で一匹の野良犬が声高々と威勢良く吠えていました。

 するとそこに一羽の鳥が飛んできて、近くの梢に止まりました。


「おい、そこの犬。さっきからうるさいんだよ。もう少し静かにしてくはくれないか」

「あんただって昼間は『カーカー』うるさいじゃないか。お互い様だろ」

「いやいや……お前さんのほうがうるさいねえ。そもそも何で吠えてるんだ?」

「俺か、俺は吠えたい気分だから吠えてるのさ」

「ふんっ、実に野良犬らしい稀薄な解答だ」

「じゃあ、あんたたち鳥は何だって鳴いてるんだ?」


 犬の質問に、鳥は両羽根を大きく広げて見せて言います。


「ワシたちは、自分たちの存在を地上の者に知らしめているんだよ。天から地上を見下ろす者こそ、この世の位でもっとも高貴な存在だってことをさ」


 その言葉に、犬はふんっと鼻で笑いました。


「それこそ、くだらない。ただの見栄を張っているだけじゃないか」

「見栄など張ってない。空を統べる者こそ、この世の支配者。それを地上のものは理解していないようだからな」

「今まさに、羽を休めて地上に降りているあんたが言ってもなんの説得力もないぞ」

「ふんっ、好きにわめくがいい。地べたで伏せる存在の言葉などワシの耳に届かぬ」


 鳥はそう良いながら糞をしました。

 それに更なる苛立ちを覚えた犬は、牙を見せて鳥に歯向かいます。


「大地の恵みがあってこそ、お前たちも生かされているんだ! 俺たちの声が届かぬなら、大地の恩恵を受け取る資格は無い!」


 息を荒げる犬に対して、鳥は自らの羽根を毛繕いしています。全く聞く耳を持とうとしていません。

 それから犬が威嚇を込めて「ワンッ! ワンッ!」と吠えると、鳥は犬を見下すように言いました。


「いいか、お前さんが吠える行為は、自分が負けを認めたという証拠。それじゃあな」


 鳥はそう言い残して、空高く飛び立ちました。

 そして、最後に大きく「カッコー」と鳴いていきました。


 その場に取り残された犬は、言い包められたせいか地団駄を踏み一人寂しく泣いていたのでした。

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