くらむ

「……ねえ、三組の山田君が、水島さんと一緒に帰ってたってるところ、見ちゃったんだけど」


「ああ、なんか最近、付き合い始めたみたいだね」


「え、あんた知ってたの?」


「まあ、風の噂で聞いただけだけど……」


「そう……。しかもその二人、自転車で二人乗りしてたんだよ。山田君がこいでる自転車の荷台に水島さんが乗って」


「掴まってた?」


「え?」


「いや、だから、ちゃんと掴まってたのかって聞いてるんだよ。水島さんが山田の腰に」


「いやいや、そんなところまで見てないよ。だって私、二人が付き合ってること自体知らなかったんだから。二人が仲良く二人乗りしてるって事実だけで、もう頭真っ白だよ」


「あれ、お前山田のこと好きだったんだっけ?」


「はあー、好きじゃないし。ていうかあんたが水島さんのことずっと好きだって、私に相談してたんじゃない!」


「ああ、そうだった。それじゃ尚更ちゃんと見といてくれよ。腰に手を回しているかどうかは重要だぞ。それで二人の関係が、どこまで進んでいるのかがよくわかるんだから」


「……そう、だよね。このこと、本当はあんたに伝えるべきか迷ってたんだけど、もう知ってたなら、私も冷静になってちゃんと見ておけば良かったかも」


「お前さ、視力だけは良いんだから、そのところちゃんと見といてくれよ」


は、余計」


「お前も誰かに恋してるのか?」


「え、なんで急に?」


「だって恋は盲目っていうだろ」


「それは喩えであって、その好きな人ばかりに気を取られちゃって、他のことに意識が向かなくなっちゃうことを言うんだよ。だから、私は別に……」


「良かった」


「え、何が?」


「俺は今、ちょっと目の前が真っ白だよ」


「まあ、そうりゃそうだよね。好きな人に彼氏ができちゃったんだから」


「いや、そうじゃなくて……お前がやけに眩しく見えて困ってるんだ」

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