ウワバミロボット

 ある小さな村に、それはそれは恐ろしい大蛇がいました。

 しかし、誰もその大蛇の姿を見たことがありませんでした。それもそのはず、その大蛇を見たものは皆、ぱくっと飲み込まれてしまっているのです。血痕や叫び声すら残りません。なので大蛇が通った後には、車一台分ほどの這った跡しかありませんでした。

 そこで一人の猟師が大蛇退治に名乗りを上げました。そして猟師は夜中、一人で大蛇がよく現れる森の中へと向かいました。


 すると早速雑木林の影に、月明かりに反射した大蛇の尾を見つけました。眠っているのでしょうか。まだ、大蛇のほうは猟師に気づいていません。

 猟師は気づかれないように、ゆっくりと忍び寄ります。

 だんだんと近づくに連れ、その大蛇の全貌が見えてきました。


「なんだ、これは」


 何度も目をこする猟師。その目の前にいた大蛇の身体は、銀色の金属で覆われていました。

 恐る恐る猟師は大蛇の身体に触れます。本物の鉄、それはまるで死んでいるかのように冷たいものでした。

 すると、どこからともなく声が聞こえてきました。


「今度は何の用だ?」


 その声に驚き、猟師は腰を抜かしてしまいました。しかし、すぐに答えます。


「お前が、人を襲うウワバミか!」


「いかにも。しかし、ワシは人を襲ったつもりはない。ただ、空腹を満たすために目の前にいた人間を熟したにすぎない」


「うるさい! バケモノめ!」と猟師は握りしめていた猟銃を構え、大蛇に向かって放ちました。

 しかし、金属の身体を持つ大蛇には、全く猟銃の弾は効果がありません。


「ワシに楯突こうとする人間は初めてだ。皆、ワシの姿に驚いて、半べそをかいている奴らばかりだったからな」


 猟師も使い物にならなくなった猟銃を投げ捨て、地べたに這いずりながら後ずさりをします。


「お、お前は、どうしてそんな身体をしているんだ?」


 すると大蛇は答えます。


「ワシは人間に作られたのだ」


「人間?」


「そうだ。ただワシは未完成のまま世に放たれた。身体の中も金属でできているせいか、いくら人間を熟しても、まったく満足できないのだ」


「それじゃ、まだ飲み込まれた人間たちは、まだお前の腹の中で生きているのか?」


「さあな。ただ、吐き出すわけにはいかん。ワシは人間を飲み込んでこそ、その存在意義を成していると実感できる。そう教えられている」


 わずかな希望を抱いた猟師が、まだ腹の中にいる人間を助け出す良案を思いつきました。


「なら、その存在意義を満たしてやろう。その代わり、今まで飲み込んだ人間たちを吐き出してほしい」


「なに、それは本当か?」


「ああ、もちろん」


「わかった。なら明日までに用意しろ。ただもしできなければお前を食ってやるからな」



 そして翌日、猟師は約束通りに大蛇の前にやってきました。


「持ってきたのか?」


 大蛇の言葉に猟師は頷きます。


「これを飲め。ただその前に、腹の中の人間を出してもらわなくては困る。これを飲んでからでは、中の人間が死んでしまうかも知れないからな」


「よし、わかった。しかしもし、ワシが満足しないものだったら、お前もろとも村の人間すべてを飲み込んでやるからな」


 大蛇はそう言って、大きな口から次々と人間を吐き出していきます。そしてすべてを出し終えると、猟師が用意したポリタンクをがぶがぶ飲み始めました。

 その時でした。一瞬の隙を突いて、猟師が持っていた火種を大蛇の口の中めがけて投げ込みました。


「あ、アツい! アツい!」


 大蛇は瞬く間に大きな火柱となりました。そう、大蛇が飲んだのは灯油でした。


「見たかバケモノめ! 溶けてしまえ!」


 すると、大蛇は最期の力を振り絞ります。


「人間め、謀ったな! くそっ、こうなったら」


 大蛇はその大きな身体を素早く回転させ、森の木々を炎で包み込みました。一度広がった炎はみるみるうちに人々が住む村まで襲い、村すべてを消化させてしまいました。

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