スイカの嫌いな彼
彼の好き嫌いの多さは、むだ毛の数を優に超えるほどだった。
運動するのは嫌。
一人で買い物するのは嫌。
ニュース番組はつまらないから嫌。
他にもたくさんあるのだが、一番苛立つのは食事に関してだ。
外食したりお弁当を買ってきたりした時に、自分の嫌いな食べ物が入っていれば口にすることは絶対にない。
ある蒸し暑い日。農家の実家からスイカが送られてきた。幼い頃から食べ慣れているスイカは、私の大好物でもあった。彼が嫌いだと初めから知っていたら、一人でこっそり食べていたのに。
それを知らなかった私は気をつかい、食べやすいように切り分け皿に盛る。そして彼のところに持っていくと、そのスイカを見た瞬間、彼の表情があからさまに嫌悪感を表した。
「あ、もしかしてダメだった?」
「うん。昔からスイカは嫌いだ」
自分が好きなものをはっきり“嫌いだ”と言われると、自分自身に言われたみたいで少し傷つく。しかし、それでも好きなものはとことん好きという彼の性格に、私たちはまだ繋がっていられた。
「どうしてダメなの?」
理由を聞くと、彼はすねたように答えた。
「タネを取るのが面倒だから。たくさんあるし、手も汚れる。口の中に入ってしまえば、気持ち悪いことこの上ない」
味ではなくタネが取るのが面倒とは。
「それじゃ、柿やサクランボもダメなの?」
「スイカよりはマシ。でも、嫌いだね」
柿もサクランボも私の大好物だった。
彼の“嫌いだ”という言葉を聞く度に、私の中で
そして、気づいた時には彼の股間めがけて足を思いっきり振り上げていた。
悶絶する彼に対して、私は言った。
「私も嫌いになりそうだわ。タネのあるもの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます