スイカの嫌いな彼

 彼の好き嫌いの多さは、むだ毛の数を優に超えるほどだった。


 運動するのは嫌。


 一人で買い物するのは嫌。


 ニュース番組はつまらないから嫌。


 他にもたくさんあるのだが、一番苛立つのは食事に関してだ。

 外食したりお弁当を買ってきたりした時に、自分の嫌いな食べ物が入っていれば口にすることは絶対にない。


 ある蒸し暑い日。農家の実家からスイカが送られてきた。幼い頃から食べ慣れているスイカは、私の大好物でもあった。彼が嫌いだと初めから知っていたら、一人でこっそり食べていたのに。

 それを知らなかった私は気をつかい、食べやすいように切り分け皿に盛る。そして彼のところに持っていくと、そのスイカを見た瞬間、彼の表情があからさまに嫌悪感を表した。


「あ、もしかしてダメだった?」


「うん。昔からスイカは嫌いだ」


 自分が好きなものをはっきり“嫌いだ”と言われると、自分自身に言われたみたいで少し傷つく。しかし、それでも好きなものはとことん好きという彼の性格に、私たちはまだ繋がっていられた。


「どうしてダメなの?」


 理由を聞くと、彼はすねたように答えた。


「タネを取るのが面倒だから。たくさんあるし、手も汚れる。口の中に入ってしまえば、気持ち悪いことこの上ない」


 味ではなくタネが取るのが面倒とは。


「それじゃ、柿やサクランボもダメなの?」


「スイカよりはマシ。でも、嫌いだね」


 柿もサクランボも私の大好物だった。


 彼の“嫌いだ”という言葉を聞く度に、私の中でしゃくの種が山のように積もっていた。

 そして、気づいた時には彼の股間めがけて足を思いっきり振り上げていた。

 悶絶する彼に対して、私は言った。


「私も嫌いになりそうだわ。タネのあるもの」


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