ホシと王子さま

 生意気な後輩が連れてきたのは、まさしく我々が捜し求めてきた人物だった。


「どうです先輩。これで僕も出世街道まっしぐらですかね」


 子どものように微笑む後輩に対し、俺は釘を刺す。


「あまり調子に乗るな。まだこいつが犯人だとは限らんだろ」


「でも、アリバイは無いですし、動機だってあります。こいつ以外にありませんよ」


「しかしまだ、決定的な証拠がない。上のやつらもこいつが犯人で間違いないとは思っているようだが、俺は納得していない」


「何をそんなに片意地張ってるんですか? もしかして僕が犯人を捕まえてきたことに嫉妬してるんですか?」


 そんなことはない。そうはっきりと言えない自分がもどかしかった。


 この生意気な後輩がホシを捕まえることができたのは、単なる運が良かっただけだ。ホシが現れそうな場所を、複数の捜査員が張り込んでいた。もちろん俺も。そして、偶然後輩の張り込んでいた現場にホシが現れ捕まえた。


 ホシとして捜査線上にあがった時点で、その人物を捕まえるのがいち捜査員の仕事。捕らえたホシが本当の犯人かどうか関係ない。


 自分の中でホシがホシではないという疑念を抱えていても、ホシとなった者を捕まえることによって、評価は上がる。更には自信に繋がり態度が大きくなる。

 この後輩はまさにそうだった。


 聞いた話によれば、逃げ出したホシを追いかけて捕まえたのがこの後輩。後輩は学生時代陸上部だったこともあり、足には自信があったそうだ。あっという間に追いついて捕まえたという。


 俺の忠告を紳士に受け取ることはないだろうと思いつつも、俺は言った。


「いいか。出る杭は打たれるって言うだろ。そんな態度を取っていると、上に嫌われるぞ」


 後輩はへらへらと笑いながら言った。


「大丈夫っす。僕の親父、刑事部長なんで」


 忘れてた。


 どうやらこの王子さまは、そういう星の下に生まれたのかもしれない。

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