幕間劇 ギンタの場合(2)

 正直に言おう。僕は電話が苦手だ。


 自分から話しかけることさえまともに出来ない僕にとって、「わざわざ電話という手間をかけて相手を呼び出す」なんて高等技術はハードルが高すぎる。

 ようするに僕は、何の用事もないのに電話をかけることがどうしてもできなくて、中学を卒業して――ユカと離ればなれになってから、一ヶ月余りを無駄に過ごしてしまった。

 ようやくユカに連絡する気になったのは、ゴールデンウィークに入ってから。親にねだって自分用の携帯電話を手に入れた僕は「ユカに電話番号を教えなきゃいけないから」と自分に言い訳をして、取っておいたメモのとおりに電話番号を打ち込んだ。


 好きな子に電話をかける。


 ただそれだけのことなのに、心臓がばくばく騒いで鳴り止まない。ふるふると指が震えて思い通りに動かない。小心者すぎる自分に呆れながら、それでも僕はなけなしの勇気を振り絞る。

 数字をひとつひとつ確認して、番号が間違っていないことを念入りにチェックして、僕は携帯電話を耳に当てて呼出音に集中する。


 プルルル、プルルル。


 早く出ろ。早く出ろ。ああでもちょっと待って。深呼吸、深呼吸、すーはー……よしこい! 新品の携帯電話よ! 一ヶ月ぶりのユカの声を、僕に聞かせておくれ!


 プルルル、プルルル、ガチャ。



『おかけになった電話は現在使われておりません。番号をお確かめになって――』



 …………あれ?


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