第3話

スポーツで全国に名を轟かせている高校の屋上で、2人の中肉中背の男が何かをしている。一人はメガネをかけていて天然パーマの男であり、もう一人の男は細目ということ以外に特徴が特に無い男だった。


2人の男は互いに睨み合い、中腰になっている。俺は何かの格闘技か?と思ったが、次の瞬間、一人の男が隙をつき、もう一人の男の股の中に腕を突っ込み、腕を突き上げたと同時に「ガッポイ!」と叫んだ。


この光景を見て俺は唖然とした。何やってんだ・・・あいつらは。と尾木に聞かずにはいられなかった。

「ガッポイだ。知ってるか?ガッポイ」

知るはずないだろ。確かに面白い話のネタにはなりそうだ。だが、俺はこんなふざけた部活に入るつもりはない。悪いがもう帰らせてもらうぞ。と言うと、普段は怒らない尾木の顔に怒りの表情が浮かんだ。俺は彼が怒るのを見た記憶が無いので少し怯んだ。


「ふざけた・・・だと?ガッポイは列記としたスポーツだ!次に俺の前でガッポイのことを悪く言ってみろ。後悔することになる。」

悪い。俺は直ぐに謝った。


しかし・・・だ、ガッポイなんてスポーツ見たことも聞いたことも無い。俺はガッポイについて色々聞く。ルールはもちろん、そもそも他校にガッポイの部活なんてあるのか。等質問攻めをしている間に、二人の男が歩み寄ってきた。


「尾木、パートナーは見つかったか?そこにいる長身の彼か?」言葉を発したのはメガネの方。長身の彼とは俺のことを指している。俺は175センチ程の長身で上半身は細身だが、サッカーで鍛えた足腰はガッチリしていた。


「ええ、梅田先輩。パートナーはこいつです。俺はこいつとともに全国を目指し、ガッポイでもタッ校を強豪校にします。あなたたちとは志が違うのです。」

ちょっと待てと、俺はお前のパートナーになった覚えはないぞ。

「すまない、今日だけでいい。俺に協力してくれ!そうでないと、お前の様に俺は夢を失ってしまう。頼む!俺とガッポイしてくれ!今日やって気に入らなかったら、これ以上無理強いをするつもりはない。」

俺が今日ガッポイしないと尾木は夢を失う?訳を聞くと、尾木はガッポイ部に入部する条件をこの先輩二人に課せられていて、それはパートナーを見つけ、この先輩二人と2対2でガッポイをして勝たなければならないというものだった。


どうして、部員が少ないのに新入部員を歓迎しないのか。それは、今年県大会のベスト4以上の成績を収められないのならば(全国大会だの県大会があったことに驚きだが)、立花高校ガッポイ部は8年の歴史に幕をとじる。つまり廃部させられるからみたいだ。先輩二人は最後の大会を悔いのないものにしたいみたいで、部活存続は諦めている。過去に県大会に出場したことは一度もなく、立花高校があるA市で唯一ガッポイ部のある武庫高校に出場を阻まれ続けたみたいだ。武庫高校は毎年、県ベスト4以上の成績を残し、稀に全国に行くこともある強豪らしい。


「タッ校をガッポイでも強豪にするだぁ?やっぱFOXと呼ばれていた男は違うなぁ?そんな馬鹿げた理由でガッポイの名門校の推薦を蹴ってまでウチに来たのか。ガッポイでは大会に出られる選手はたった二人。梅田と最後の思い出を残そうって時に邪魔されるのはたまったもんじゃないぜ!」細目は尾木にいう。


FOX?ガッポイでスポーツ推薦?

「なんだ君は。友達のくせにそんなことも知らなかったのか。尾木は中学時代、全日本ガッポイジュニア大会でベスト4の成績を残し、ガッポイ界では名の知れた男だ。小柄な身体で俊敏な動き、素早いフットワークで相手を翻弄し、次々とポイントを奪っていき、相手には自分の股を捉えさせないことからFOXという異名をつけられた。全国の名門校から推薦が来るも全て蹴り、わざわざウチのガッポイ部でプレイしたいという。全くたまったもんじゃないぜ!」と細目は尾木に素顔について解説してくれた。よくわからないが、とりあえず実は凄いやつだったという事は伝わり、驚きを隠せなかった。

しかし、俺の中学にはガッポイ部なんてなかったはずだが、外のガッポイクラブかなんかがあってそこから出場したのだろうか。


「まぁまぁ、塚本。約束は約束だ。俺たちより強え二人が現れれば、代表の座を譲らないわけにはいかない。なーに大丈夫だ塚本!パートナーの男は素人だ。いくらFOXといえども、一人で勝てる程ガッポイは甘くねぇ。準備が出来次第、始めよう。代表の座をかけた戦いを!」細目の男の名は塚本というみたいだ。


見学をしに来たつもりが、立花高校の代表を決める試合をすることになってしまった。もし俺らが勝ったところで、俺がガッポイ部に入らなかったら尾木はどうするつもりなのか?


でも、俺は思った。ガッポイはこのスポーツの名門、立花高校で俺が選手として全国を目指せる唯一のスポーツなのではないかと。サッカーへの思いは消えたわけではない。でも俺の心は揺れていた。なんでもいいから全力でスポーツに打ち込みたい!全国を目指したい!ガッポイ部でならそれを実現できるかもしれない。


尾木、どうせやるなら勝つぞ。もしこの初ガッポイが楽しければ、お前とともに全国を目指してやる。というと、尾木は嬉しそうな顔をうかべ、おう!と返事をした。


「俺がいるからガッポイの未熟者の先輩たちに負けることはまずない。お前はこのゲームでガッポイの楽しさを発見することだけに集中しろ。」尾木の背中がなぜか頼もしく見えた。


「レフェリーをさせるため、マネージャーを呼ぶから、その間に君たちはウォーミングアップをすませるといいよ。ガッポイは激しいスポーツだからね。」といい、梅田はスマホを取り出した。マネージャーとかいるのかよ。と思った。


待っている間、尾木と一通りルールの確認をした。

しばらくするとマネージャーが登場した。マネージャーというから女を期待したが、太っていて、顔は油とニキビまみれでメガネをかけた、オタクみたいな野郎だった。名前は福島というらしい。

選手四人と福島は5m×5mの正方形のフィールドに入る。フィールドの線は白いテープで作られている。


味方と隣どうしになり、相手チームと向かいあうという形になる。

他の三人が中腰になるから、とりあえず俺も腰を落とした。

ピィー! 福島の臭そうな口からホイッスルが鳴らされた。





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決めろ、ガッポイ! @onaka4545

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