第12話 獣人族
僕は上流下流の景色を楽しみながら川を渡り終えると、目の前の森から道が伸びている事に気付いた。
さっきまで首筋に張り付いていたキュルルも大地を見るや大喜びで飛び降り、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねている。
「道がある。」
「そうじゃ。
ここから先はドラゴンの墓を守っておる獣人族の領域じゃからの。」
「獣人族?」
「なんじゃ、獣人族も知らぬのか?
人間族の街でも普通に暮らしておるじゃろう?」
「そうなんだ。」
僕は相槌を打って誤魔化す。
精霊やドラゴンに魔物まで存在する世界なのだから、人間以外の人型種族が居ても不思議ではないが、実際に耳にするとやっぱり戸惑う。
獣人は、人間と動物の外見を合わせ持った存在の総称で、小説やゲームなどサブカルチャーの分野で有名だが、実は神話学や人類学でたびたび論じられた学術的な存在でもある。
エジプトの神の多くは獣人の姿をしているし、日本でも人の姿をした獣の神は多数存在する。
しかし、僕の頭の中に思い浮かんだ獣人はそのような神々しいものではなかった。
もふもふとした尻尾を振り振りしながら、ピクピクと動く可愛らしい獣耳にクルクルとした瞳、正に萌えキャラど真ん中なイメージだった。
「何をニヤけておるのじゃ?変なヤツじゃのぅ。」
思わずニヤけた僕の横顔を石の肩当てからジト目で見ていた岩の精霊が呟く。
「ドラゴンの墓へ入るには墓守である獣人族の許可を得る決まりなのじゃよ。
ドラゴンの墓には財宝なども納められておるのでな。
罰当たりな輩が入り込むことも多いのじゃ。」
「そうなんだ?」
「そうじゃ。
今日の目的はその獣人族の村まで行くことじゃが、少々時間が押しておるでの。
日が暮れるまでに着けるようにペースを上げたい所じゃの。」
「うん、分かった。この道を進めばいいんだよね?」
「そうじゃ。
特に道に迷うようなこともないじゃろうから、安心して進むがいいぞ。」
僕は、地上を満喫しているキュルルを肩に乗せて歩き出す。
道がある以外に洞窟周辺の森との違いは感じられない。
獣人族の村までどれくらいの距離があるか分からないので、とりあえずいつもより気持ち大股で歩くことにした。
日が沈みかけた頃、僕は無言のまま、急ぎ足で道を進んでいた。
岩の精霊も肩当てから上半身を出し、険しい表情を見せる。
キュルルも空気を読んだのか真剣な眼差しで進む先を見ているようだ。
「ちと不味いかのぅ。囲まれている訳ではないが数が多すぎる。」
遡ること15分程前。
獣人族の村へ急ぐ僕を岩の精霊が止めた。
岩の精霊が見つめる方向に耳を澄ましてみれば、森の中から何やら音がする事に気付いた。
風は無く、自然により発する音ではない事は確かだ。
「動物かな?」
「いや、違うな。魔力を帯びておる。」
「魔力?」
「そうじゃ。
生き物であれば生命力に満ち溢れているはずじゃが、ヤツからは生命力を微塵も感じられん。」
「もしかして?」
「魔物かそれに属する者じゃと思う。」
「どうする?調べる?」
「お前さん、戦えるのか?」
「多分と言うか絶対無理だね。」
「じゃろうな。なら残る選択肢は一つじゃ。」
「分かった。逃げる。」
僕は、目的地の方向に向かって一目散に逃げようとする。
それを慌てて岩の精霊が押し止めた。
「こらっ、焦るでない。
まだ気付かれておらんのじゃ。
できるだけ静かにこの場を離れるのじゃ。」
僕は当たり前の事を指摘され、少しばかり恥ずかしくなったけど、照れて見せる場面でもないので素っ気無く返事を返した。
「うん。」
僕は爪先に意識を集中させ、忍び足でその場を離れるように歩き出した。
時間にして数分歩いただろうか?
僕は後ろに気配がない事を感じながら来た道を恐る恐る振り返る。
案の定、そこには何も居なかった。
無事に逃げ延びた事に安堵した僕だが、岩の精霊が険しい表情のままであることに気付いた。
「どうしたの?」
「あまり宜しくない状況じゃ。」
僕は岩の精霊の表情から、その言葉が冗談ではない事を感じ取る。
「先程とは別の気配がするのじゃよ。
どうやらヤツらは複数徘徊しておるようじゃな。」
「徘徊してると言う事は、集団で群れている訳では無いという事?」
「そうじゃな、だが逃げるワシ達にとっては歓迎すべき事ではないな。」
確かに、相手が集団で連携して僕達を追い込もうとしているのであれば、裏をかいて出し抜く事もできるだろう。
しかし、それぞれが勝手に動いているとなると、逃げる側はその都度判断が必要になり計画的に逃げ切る事が困難になってしまう。
更に戦うという選択肢がない現状では、各個撃破という訳にもいかない。
「どうしようか?」
「そうじゃな。
戦えない以上、一刻も早く獣人族の村へ行くしかないじゃろうな。」
意見が一致した事を確認すると、僕は早歩きで獣人の村に向けて歩き始めるのだった。
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