第5話 水場を求めて
森に入って5分ほど進んだ先に赤い毛玉のような生き物と出合った場所がある。
昨日は慎重に歩を進めていた事もあり随分と時間を要したが、枝葉を集める為に何度か足を運んだこともあって、今日はそれほど時間も掛からなかった。
僕はぴょんぴょんと跳ねながら催促のチラ見をする彼を横目に、赤い実に触れないよう注意しながら枝を折り、目の前に差し出した。
昨日は警戒心からか最初の一口まで時間が掛かったものだが、今日は遠慮する事なくその外見に見合わない大きな口でぱくりと一飲みにする。
食べる度に幸せそうな顔をしてゆらゆらと揺れる姿は何度見ても破壊力抜群だ。
結局、赤い実5つをぺろりと平らげ腹八分目と言わんばかりに満足げな表情を見せるのであった。
僕は幸せそうにゆらゆらと揺れる様子に癒されながらも、今日の食料となる洋梨のような果実を昨日と同じ要領でもぎ取り布に包んだ。
木から降りると、下から見上げていた赤い毛玉のような生き物は肩に飛び乗ってきた。
頬にすりすりしてくるので、お返しに撫で撫でしてやると、やはり嬉しそうにゆらゆらと揺れるのだった。
「さて、これからどうしようかな?」
僕は手頃な岩に腰掛け、今後の事を考えていた。
正直な所、やるべき事は数え切れない程あるのだが、何の縛りもない状態という事もあり、何処から手を付けて良いものが悩んでいたりする。
日本で生活していた頃は、プライベートな時間と仕事の時間など良くも悪くも規律正しい生活環境が整っていた。
しかし今は自給自足を除けば完全に隠居生活な訳で…
優先順位を付けるのであれば、水場の確保だろうか?
いつまでも果物から水分を補給し続ける訳にもいかないし、火を起こす事が出来るので安全な飲み水を作る事も出来る。
それにこの世界に来てから体を動かしてばかりだった事もあり、さすがに埃っぽくて汗臭くてベタベタする。
髪もパサパサなので温かいお湯で湯シャンなどと洒落込まなくても、せめて綺麗な水で汗を流して水浴びくらいはしたい気分だ。
初日に鳥のような鳴声を聞いているので、近くに水場があることは間違いないと思う。
穀類を主食とする鳥類は常に水源の近辺で生活を送るからである。
ある程度近くまで行けば、水の流れる音も聞こえるだろうし、川のように流れがあるならば、遅かれ早かれ行き当たると思う。
ただ水場には危険な生物も集まってくるので注意は必要だ。
もしかしたらワニのような大型の爬虫類が生息しているかも知れない。
水質などの問題も考え出したらキリがない。
しかし、水源の位置を把握しておくことは今後を考えても重要だと思う。
僕は立ち上がると、洞窟から続く崖に沿って水場を求めて探索を開始するのであった。
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