プロローグ 3 事の顛末
読経がこだまし、夢かうつつか分からなくなる中、僕は事の顛末を思い返していた。
全ては一党独裁国家の滅亡とともに始まった。
長年一党独裁主義で国力を拡大していった亡国は、その歪な成長が限界を超え、激しい内戦状態に陥った。
次第に戦火は拡大し、広大な領土は瞬く間に地獄へと変貌していった。
追い詰められた独裁者は、道連れにと核兵器を使用。
敵対国の首都がことごとく瓦礫と化した。
その報復が行われた事は言うまでも無い。
結果、地球の環境は致命的に汚染され、日に日に人が住むのに適さない環境へと変貌していったのである。
愚かな事に、人類は滅亡への扉を自ら開いたのだ。
そんな中、幸運にも物理的な被害を逃れた日本では一つの大型プロジェクトが進行していた。
僕の父、利根宮 仁がプロジェクトリーダーとして指揮していたそれは、核により汚染された地球の環境が元に戻るまで、一時的に人類を異世界へ移動させると言うものだった。
政府から派遣された松永とともに、若輩者の僕も父の右腕として手伝い、プロジェクトは着々と成功への軌跡を描いていた。
しかし、プロジェクトの成功が確信に変わった日、彼らは本性を現したのだ。
朝礼を行うため父を呼びに研究室へ赴くと、そこには血の海に沈む父と、拳銃を片手に卑しい笑みを浮かべ立ち尽くす松永の姿があった。
松永はその卑しい笑みを僕に向けると、何処から現れたのか、数人の警察官が僕を取り押さえた。
僕は父親殺しの犯人に仕立て上げられたのである。
そして僕は真っ当な裁判を受ける権利を行使されることもなく、今は無き尊属殺人罪の容疑で死刑を宣告されたのだ。
そう、それは明らかな冤罪。
僕ら親子は嵌められたのだ。
このプロジェクトは、初めから人類を救う為などでは無く、汚染された環境を地球が回復した後、一部の利権者が我が物とせんが為に画策されたものだったのだ。
父は人一倍正義感に強く、そして優しかった。プロジェクトが開始してからは、研究室に泊り込み、寝る暇も惜しんで開発に没頭していた。道を踏み外してしまった人類にもう一度やり直すきっかけを与える為に…
僕は彼らを決して許さない。
しかし、秩序が崩壊した今では権力のみが絶対である。
今の僕では彼らに一矢報いることすら出来ない。
唯一僕にできる事は、毅然たる態度で己に恥じること無く終焉を受け入れることだ。
仮に彼らが僕に手を差し伸べたとしても、僕は断固拒否するだろう。
彼らは尊敬する父を奪い、人類を裏切り、私欲を満たそうとする最低の人間だ。
そんな輩と共に行くことは僕の良心が許すはずも無い。
それが僕が導き出した答えなのだ。
僕は決して間違ってはいない。
故に、僕は胸を張って逝く。
さあ執行官よ、僕に正義を与えたまえ!
読経がこだまする中、執行の指示が下る。
3人の執行官がそれぞれに与えられた各々のボタンを同時に押した瞬間足元の床が抜け、僕は奈落へと落ちていくのであった。
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