プロローグ 2 僕が邪魔な理由
僕は刑壇室の中央、踏み台の上に立たされ首にロープを掛けられた。
両足首は縛られ、いよいよその時が近づく。
残された作業は、3人の執行官がそれぞれに与えられた各々のボタンを同時に押すだけ。
そうすれば、どれか一つのボタンが動作し足元の床が抜け僕は終焉を迎える事になる。
刑壇室の向かいには、吹き抜けを挟んで執行を見届ける為の立会室があり、今は厚いカーテンでその視界を遮っている。
そこには数人の立会い人に紛れ、ほくそ笑む一人の卑しい輩が居た。彼こそが僕を死地に追いやった張本人、松永である。
彼ら一部の利権者にとって僕は後の憂いでしかない。
何故ならば、もし僕が何らかの手段を用い時空移転装置の存在を公にすれば、彼らは一瞬にして全人類から狙われる身分に陥るからである。
僕らが完成させた時空移転装置は、一種の巨大な門だ。
大きさは高さ数十メートルに達し重量も規格外。
よって、簡単に移動できる代物ではない。
更に起動するには日本全土で発電されている同等量の電力を集める必要がある。
逆に言えば、起動する為には日本全土への電気供給を止めないといけない。
移転自体はそれほど時間は掛からないだろうが、彼らが持ち運ぶ物資は相当の量になるはずだ。
当面の食料や水をはじめ、移転先でのベースキャンプ設営資材など、帰還時の消費電力に必要な発電資材を含めればトラック何台分と言う単位では表現しきれない値になるはずだ。
その工程は最短でも数日に及ぶことは想像に難くない。
生活のほぼ全てを電気に依存している人類が天変地異の最中、果たして電気の無い生活を送る事ができるであろうか?
更に、一部の権力者だけが時空移転装置を使って異世界に逃げようとしていると知ったらどうなるだろうか?
答えは簡単だ。
人々は時空移転装置へ我先にと殺到し、そこで争いが起きるであろう。
当然、その矛先は出し抜こうとした一部の権力者達に向けられる事は言うまでもない。
彼ら一部の権力者にとって安全と確実性を確保する為に、時空移転装置の存在を知る僕を消す事は必然のミッションなのである。
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