日常生活編

 ひらがなとカタカタを比べて、日常生活で使用するのは一体どちらか?

そう質問されたら「ひらがな」だと答えざるを得ない。

なぜなら、手紙のやり取りにカタカナだけ使う。という事がないからだ。

その他にも、手形や借金の証明書、取引のやり取りなどでも、カタカナだけを採用している企業はない。

百人一首はもとより、※3 雑誌や本屋で売っている教科書や専門書には、全く漢字を用いない、ひらがなだけの本も存在している。

※補足情報3: 原本は草双紙です。これは現在でいう所のコンビニ雑誌に近いと思います。

読み本に関しては、図書館などの公共施設で時折、開催されているお話会に使われる絵本のような感じです。


 また、町内を見回せば、靴屋なら店の看板に靴のイラストを描き、ひらがなで「くつや」と併記して商売内容を示している。

日本全国至る所で営業している立ち飲み居酒屋のメニューを見れば「にしめ」とは書かれているものの「ニシメ」とは書かれていない。

最近、この「めし」という字は低俗な感じがするからカタカナの「メシ」に変えよう! などと主張している者もいるようだが、これは広まらないだろうと考えている。

例え話をしよう。

ここに一人の小学生がいるとする。

無事に入学した一ヶ月から二ヶ月ぐらいに本人が病気するか?

もしくは親御さんになにかあって、通学を断念せざるえない事情が発生したとする。

退学する時までに、学習している文字はひらがなとカタカナ。

一体どちらが子供の役に立つだろうか?

「ひらがな」ならば、看板を見てこれは「めし屋さん」だと判断出来るだろう。

しかし「カタカナ」はまだ世間一般に広く普及されていない。

せっかく学んでも、一体何が書いてあるのか看板の内容がさっぱり分からないだろう。

子供にとって便利かどうか?

検討したならば、まず真っ先に教えるべきは「ひらがな」だと疑う余地はない!

さらには、カタカナにせよ、ひらがなにせよ。

「いろは」の四十七文字を知る事が出来れば、これらを組み合わせるだけで、たちまち日常生活には困らなくなる。

いろはは一、二、三。という数字の代わりや、いの一などと組み合わせて使用している事が多いからだ。

これは、大工が家を建てる時に、柱に順番つけようとして、三尺(おおよそ一メートル未満)ごとにい・ろ・はの印をつけ、長さに対して数字を記していく。いの三番、ろの八番といった具合で使用していけば、建築の手順が出来上がっていく。

これは大工だけに限った話ではない。

商店街のくじ引き・芝居の桟敷、居酒屋などの下駄箱のかぎ。などなど世間一般で広く利用されている。

学者の世界では、甲乙丙丁の文字を扱っているが、下駄箱のかぎとしては分かりづらいので、決して使用していない。

いろはの使い道は、とても広く大切だと理解して頂けただろうか?

ところで、不思議に思っていることがある。

明治維新以来、あいうえおの五十音を学ぼう。そう唱えだした者がいるのだ。

子供達にまずこの五十音を教えて、あろうことに、いろはをおろそかにしだしているのだ。

本来、あいうえおの五十音は学問だ。

そして、いろはは世間で流通している。よく見かける文字だ。

五十音とは、日本語をより活用できる文法の基本にして、いろはは単に言葉の符号でしかない。

この符合さえ理解していれば、難しい文法は分からずとも、日常生活になんら支障は出てこない。

読み書き出来る学問はとても大切だが、現在の貧困社会では、まず普段使う事の多い方を学んで、さらなるステップアップに五十音を学んでいったほうが良い。

あいうえおの五十音が暗誦あんしょう出来ても、いろはを知らなければサラリーマンにもなれないからだ。

ゆえに産まれてまず、第一に覚えるべき単語に「あいうえお」を持ってくる事は、順序が間違っていると反論せざる得ない。

この件は、七~八年前より私が機会あるごとに説明しているが、悲しいかな? 深く気にかけてくれる者がいない。

最近では、もうすっかり疲れ果てて、ほとんど説明する気力も起きないが、これを見過ごしている訳ではない事をどうか理解して頂きたい。

最後の悪あがきとして、ここに意思を表明しておく。

書道家いわく、楷書かいしょとは文字の骨であり、草書は肉である。

まず骨を作り、後に肉をつけるのを手順とする。

習字は楷書かいしょをマスターしてから草書に入るべし。

小学校の教科書などで楷書かいしょを採用したのは、この趣旨に沿っているからである。

一応、もっともな話ではあるが、親戚の叔母おばから楷書かいしょの手紙は来た事がないし、※4 畑の肥料を作る仕切り板にも楷書かいしょで書かれているのを見た事がない。

※補足情報4:干鰯ほしか

漁で獲れたいわしを干して畑の肥料にしていたそうです。

ほしかの解説URL→https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B2%E9%B0%AF


 世間で使われている文章のほとんどが、読みにくくてきったねぇ字だろうとも、ミミズがのたくったような草書文字を使用しているのは使い勝手が良いからだ。

それだけではない。

大根は低俗な言葉だから、これに変わる言葉として「※5 蘿蔔らふく」を使おう! そう主張する者も出てきた。

※補足情報5:大根の別名です。春の七草のひとつでもありますね→

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%B3


 なるほど。

細根大根ほそねだいこんを漢読みすれば「サイコンダイコン」だ。

語呂ごろも悪いし、なにより字面がおかしい。

中国思想の学者の仰りにはかなわないが、ただ八百屋で展示販売した際に蘿蔔らふく一束※6:二千円と書いて、はたして買い物客が理解する日は百年後にも訪れているのだろうか?

※補足情報6:十銭×二百円=二千円

大根一本の値段と考えると高いですね……

もしかすると十本~二十本ぐらい、まとめて販売していたのかもしれません。


 その他にも、細かい事を言えばきりがない。

逸見へんみという地名を「いつみ」と読むよう改めたり、鍜治場かじばちょうを「たんやちょう」と改名してみるか?

同じ文字でも地方によっては全く別の読み方がある。

東京に三田みたがあれば、大阪おおさか三田さんだがある。

兵庫に神戸こうべがあれば、三重の城下町に神戸かんべもある。

世間の習慣は、とても雅な先生方の趣向に沿っているとは思えない。

何より貧困層は、そのごく普通の世間一般の子供だ。

先に草書を覚えて、退学してもそれ以降が分からず、諦めてしまう確率が高いだろう。

しかし、骨である楷書かいしょを学んでおけば、文字に困ることはない。

本人が大人になった時、草書も学びたいと努力しだしたら、すんなりと先に進めるのだ。

学校での授業は、何より世間で良く使う文字を先に教え、より上級でお上品な言葉は後にするべきだ。

まず大根だいこんという読み方を覚えたあとに、蘿蔔らふくと呼ぶやり方もある。と教えればいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る