三冊の禁書
第1話 葛城静谷
いつものように制服に着替え高校へ登校する。
僕は
高校に入学して二年生になった。入学したての時のような期待感は、すでに失われている。毎日が退屈で刺激のない生活。
だからこそ――禁書図書館へ入れたことに歓喜したのだろう。
とは言っても手に入れた力を、無差別に振るう気は毛頭ない。今も手に入れた禁書を鞄の中に居れて登校しているが、今のところはお守り代わりみたいなものだ。
禁書図書館へ行ったのは昨日の事。
下校中に突然、禁書図書館という謎の場所へ連れて行かれ本を選ばされた。眼が覚めれば自分の部屋だったので、最初は夢かと思ったのだが、手には禁書が握られていたのだ。
中を見たが、のたくった字で何かをみっちりと書き記していた。ページを触れると不思議な事に頭に呪文が浮かびあがり、魔法が使えるような気がする。
だが、すぐに使うことを躊躇い、引き出しへ仕舞った。召喚と言っても何が呼び出されるか分からないのだ。ここはひとまず明日辺り、人気のないところで魔法を試すべきだ。そう考えその日はすぐに眠った。
そして朝になり、学校へ登校している。
自転車を漕ぎながら景色を眺める。いつもと変わりない街並みに欠伸が出そうだった。
◇◆◇◆
教室では誰もが挨拶を交わす。
「葛城君、おはよ!」
「ああ、お、おはよう」
僕は思わず驚いてしまった。クラスのアイドル的存在の、
彼女は容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、クラスと言わず我が校のアイドルと言っても差し障りないだろう。
絹のような黒髪が背中まで延び、二重の大きな瞳に長いまつ毛。小さな顔にピンクの唇。スタイルも制服の上から分かるほど凹凸がはっきりしている。さらにすらりと延びる白い脚は、男なら眼を奪われて当然の雰囲気を醸し出している。
「葛城君?」
「あ、ごめん。考え事をしていたんだ」
不覚にも佐々木さんに意識を取られ過ぎていた。彼女は誰でも構わず魅了してしまうから困る。僕は席に座ると、頭を切り替えた。手に入れた情報を分析しておかなければならない。
ジョーカーは禁書保有者が二人居ると言っていた。そして、戦わせたいこともはっきりしている。だったら他の二人は、この街に居る可能性は非常に高いだろう。もしかすればこの学校の生徒かもしれない
……いや、それよりも問題はどのような禁書を手に入れているかだ。そして、禁書保有者の性格だろう。
この戦いは殺さなくても、譲渡をさせれば勝利を得ることが出来る。交渉次第では三人が満足する結果を得ることは十分に可能なはずだ。
例えば二人が一人に本を譲渡して、三人が納得する願いを叶えてもらう。この場合争いは回避され、願いもかなえられるだろう。しかし、願いが大きすぎる場合は三人で分割は出来ない筈だ。
お金を願えば、三人で山分けが出来る。この場合は欲を出さない限りは平等に事を収められるだろう。だが、誰かを生き返らせたいなどと言う内容なら、到底分割は出来ない。そうなると残り一人になるまで、三人で争いは続くことになる。
やはり禁書保有者の性格面と、叶えたい願いが交渉のカギになるハズだ。
「葛城、おはよう」
「ああ、おはよう」
僕に挨拶をしてくるのは、クラスメイトの男子だ。このクラスでは僕は当り障りのない人間関係を構築している。その代り、特別仲のいい友人が居ない。けど、それでいい。本当の僕を知れば誰もが去ってしまうことだろう。
「全員席に着け、出席をとるぞ」
教室に先生が入ってきたので、僕は頭を切り替えた。
◇◆◇◆
帰宅途中にある高架下へ来ている。
ここは人気がなく、普段から人が近寄らない僕のお気に入りの場所だ。
鞄から禁書を取り出すと、ぱらりとページをめくる。
「召喚と言うけど、精霊召喚みたいなものか」
目次にはこう書かれている。
・スライム
・シルフ
・ウンディーネ
・サラマンダー
・ノーム
スライムはともかく、四種類は有名だ。火、水、風、土を元素とした精霊だ。とりあえず僕はスライムを召喚する事にした。
「我が命により顕現せよスライム」
目の前に光が現れ、体から何かが抜き取られる感覚があった。
すぐに周りを確認すると、足元に三十㎝ほどの丸い塊がプルプルと動いている。成功だ。
……成功だが、これは頼りにできるのか?
スライムは僕にすり寄ると、やはりプルプルと揺れている。
「もしかして特異な能力みたいなのがあるかもしれないな」
そう考え、スライムにコンビニで買った菓子パンを与えてみた。スライムはパンを体内に引き込むと、ほぼ一瞬で消化してしまったのだ。
今度は試しに石ころを与えると、やはり一瞬で消化してしまう。
「なるほど、何でも食べられるのか……」
スライムを消すと、今度はシルフを召喚した。
現れたのは手の平サイズの羽の生えた女の子だ。
「Λ*ξΘ」
何かをしゃべっているが、まったく理解できない。とにかく僕は命令を出してみる。
「かまいたち」
高架下の柱に向かって風の刃をイメージした。シルフは頷くと軽く手を振り下ろす。
風が巻き起こり、柱に深い傷が出来た。コンクリートが剥がれ、中にある鉄筋が見えている。
「コンクリートは切れるが、鉄は切れないと見るべきだな」
冷静な判断で分析すると、シルフを消した。
召喚した精霊は「還れ」と言えば消えることはすでに分かっている。禁書が精霊の扱い方を教えてくれるのだ。実に便利な本だと言えよう。
「ウンディーネ、サラマンダー、ノームは明日にしようか。ここではやはり目立つな」
禁書を鞄の中に仕舞うと、足早に自宅へ帰る。
途中、路地裏に差し掛かり僕は自転車を止めた。
佐々木さんを見かけたからだ。彼女は警戒しながら路地裏に入って行く。
いつも明るい佐々木さんにしては妙な雰囲気だった。僕は好奇心から、彼女の後を追った。
路地裏に入り、壁から覗き見る。
「今、ご飯をあげるからね」
彼女はしゃがみこみ子猫たちに餌をあげていた。なるほど、彼女らしい優しさだ。
子猫たちは段ボールの箱に入れられ、みゃーみゃーと佐々木さんが来たことを喜んでいるようだった。
「ごめんね。私の家は猫は飼えないの。こんなことしかできないけど、我慢してくれる?」
彼女は猫に呟きながら、申し訳なさそうな表情だ。
「あれ? 足を怪我してるの? じゃあ私が治してあげる」
そう言って佐々木さんは、バッグから本を取りだす。
まさか……。
「我願う、この者の傷を癒したまえ」
小さな光が瞬き、子猫の前足に収束して行く。
「はいおしまい。これでもう大丈夫だよ」
僕はすぐにこの場から去った。
禁書保有者の一人は佐々木美菜で間違いない。
彼女なら交渉は可能だ。穏便に収められる可能性が出てきた。
明日、接触をしてみるべきだろう。
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