第20話 姫の想い

 私は何をしているのだろう。

 

 自分自身にそう問いかけても、答えは堂々巡りだった。

 

「どう見ても、坂巻さんとペタ君よね……。それが、あんな――」


 自分の目がおかしくなったと思った。いや、おかしくあって欲しかった。だって、あのペタが、坂巻さんと手を繋いで歩いているのだ。姿を見失ったと気づいたときには、既に足は駆け出していた。なぜ? どうしてこんなにも胸が苦しいの? 息切れとは違った、切ない動悸を感じながら、彼らを再び発見した私は、思わず物陰に隠れてしまう。

 

 そうして様子を眺めていると、二人はどうやら今日の私の目的地と同じく、プールに向かうようだった。

 

 偶然を装って声をかける……いやいや、違うでしょ王子 公子。私だって、今日はプールで皆と遊ぶ約束をしていたのだ。だったら、堂々と彼等と一緒に向かっても何も問題はない。

 

「問題はない――はずなのにな」


 ぎゅっと、胸元で手を握る。プールバッグの紐がよじれるほどの力に、自分自身で驚いてしまう。動揺が出てきている。しかし、いずれは彼等と同じ施設に入るのだ。ならばいっそのこと……。

 

「よしっ――!」


 気合を入れて一歩、踏み出した瞬間だった。


「あっれー、キミじゃん! 早くない? 私も早めにきてたのにー」


 がくっと、腰から砕け落ちそうになった。

 

「ど、どうしたのキミ!」


「な、なんでもないわ……夢菜」


 何とか体制を立て直して、夢菜へと向き直る。彼女は、いつものいたずらっぽい常に何かを企んでいるような笑顔でじろじろと私を観察していた。

 

「おやおやー? 何やら変な様子ですなー。これはモエミやカナにも言っておかないと」


「ちょっと、止めてってば! お願いだから!」


 私が若干声を荒げたことに対して、夢菜はきょとんとして、それからふふっと緩く笑う。

 

「解った解った、キミがそんなに言うなら、言わないよ」


「本当? ありがとう夢菜! かき氷おごってあげる!」


「ちょっ、かき氷ってまた随分安っぽいものを。ま、いっか」


 基本、能天気な夢菜は深くは考えない。今のこともすぐに忘れてくれるだろう、私はそう簡単に思い込んでいた。

 

「じゃ、一緒に行きましょうか」


 振り返った私の後ろで、彼女がいたずらっぽく笑ったのには、気づかないまま……。

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