7 - 二人
なにこのアイコン、と思った。フェス行ったときの友達三人の写真っぽいけど真ん中じゃなくて右端がトラで、これじゃアカウントの主だってわかんないじゃん。ライブ楽しみーとか授業だるーとか意味のないつぶやきが少しと、友達とのやり取りがたくさんで、その友達はほとんど鍵つきアカウントだからどんなやり取りしてるのかはあまりわからない。どんな関係かもわからないけど、かなり仲良くしてるっぽい女の子はいるみたいだ。フェースブックはほんとにときどき写真が更新されるくらいだ。
あれ、今週は来ないのかってことが続いてこの一ヶ月は一回しかトラは来ていない。来ないなら来ないって連絡がほしい、こっちの予定だって立たないし。それで次の土曜は来るのかってラインしたら既読のままぜんぜん返事がない。
「えーと、こっちも予定たたないから連絡ほしいんだけど、、、」
ずーっとトラのタイムラインをさかのぼって先週、先々週のそのころトラがなにしてたのか見て、トラの友達で鍵つきじゃない人がトラの写ってる飲み会の写真をアップしてるのを見つけて、ああ、そっちを優先したのかと思って、なにやってんだろこれ。俺。なんだこれ。なんでこんな、人のこと女々しく気にしたりしてバカみたいだ。もう嫌だ。結婚したい。結婚して子供できてふつうの家族つくってSNSですげえ充実してますみたいな写真載せたい。
「今週は行けたら行こうかな」
ギター持ってくのめんどいからってトラがうちに置いてった練習用のやつ眺めながら邪魔だなと思った。だって来ないんなら単に俺の部屋が狭くなるだけで俺が損じゃんか。ごめんこれ持ってかえってほしいんだけどって言われてえっと、ここ置かせてもらえるとリョータんちきたとき練習できてすごく助かるんだけどだめかなっていうか、トラだって来ないじゃん最近なんか、だんだん俺の部屋っていうよりトラと共同の部屋みたいになってきてるけどこれはちょっと、違うんじゃないかってってリョータが、不機嫌っぽかったからこの前の合コンのことまだ怒ってるのかなと思ってとにかく、ごめんっていった。
「なにが?」
「なにがって、リョータがなんか不機嫌だから謝ってるんだけど……」
「別に謝ってほしいわけじゃないんだけど」
そういうつもりじゃない。ぜんぜん違う。なんでこうなっちゃうんだろう。せっかく久しぶりに遊びに来てくれたんだから楽しくやろうと思ってたのにこうなる。でも、ずるくないか? 不公平じゃないか? こっちばっかりあれこれ気にしたり便宜はかってるのに相手が何とも思ってないとか。
「でもそんなの、リョータが勝手にそう思ってるだけじゃんか」
勝手にっていうかもともと、トラがうち来るっていうから予定あけたり、なるべく過ごしやすくしたりしてるんだろこれ。そんでこっちも予定立てたいから連絡してって言ってるのに連絡はくれないし、
「だって俺だってほかの友達との都合もあるからそんな前々から決めらんないよ」
だからさあ、それだとこっちは来るか来ないかわかんないから予定開けといてさ、当日になったらそっちは友達とライブとか行ってるわけでしょ、なにそれ
「そんなのストーカーじゃん」
リョータがきつく目をつむってしばらく苦しそうに、黙ったあと「そうかもね」って言った。どうしてこんなこと言っちゃったんだろって自分で思ったけどもうどうしようもなくて黙ってたらリョータが、もうほんとしんどいんだよいや、自分の方の問題だってわかってるけど、なんかもうトラのことばっかり考えてるみたいになっちゃってほんとしんどいしともかく、もう会うの当たり前って状態やめて前みたいに戻さないとだめだ。こういうこと話しながらこれ、トラの方は何とも思ってないんだよなとか思うと自分がみじめな気がしてしんどかった。うちに遊びに来るのは月一くらいにすること、来る予定は少なくとも一週間前には決めること、合鍵は返してもらってギターも持って帰ること、そんな提案をした。
「うん」
とうつむいて神妙そうな顔でトラが了承した。二十三時だった。そんな顔をしてほしいわけじゃない。もう一度ちゃんと友人としての距離を取り直そうってだけの話だからもっと、普通に事務的に返事してほしかったのに。
「えーと、で、……今夜泊まる?」
「いや、今日は帰る」
でももう結構遅いし、泊まってっても別にいいよ、うん、でも、今日は帰るね。そっか。
紐を結ぶのが面倒な靴を玄関で、履いているしゃがんだトラの頭を部屋着のリョータが見下ろしていた。その頭越しに体と腕を伸ばしてリョータは玄関の、鍵を開けてやったのに気づかずにトラが立ち上がりかけて体が、触れそうになった。リョータが怯えたように身を引いたから二人のからだも服も触れることなく避けていった。
「じゃあ、また」ってドアを開けたらもう、春の夜で生ぬるい、空気が部屋に流れ込んできた。
十九、二十歳 オジョンボンX/八潮久道 @OjohmbonX
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