act.1 襲来Ⅵ

 輝の真上に奴が飛翔していた。輝には確認する余裕はないだろうが、笑みを浮かべている。


「そんなに死にたいか」


 ボウッとかざした右手が光っている。


「…くっ!?」


 身を翻し、なんとか射出された光球をかわした。事前に視認していたことが、行動へと繋がった。だが、予測できたとしても、一朝一夕では無理だった。かわしたことでバランスを崩し、その場に倒れ込む。


「くそっ!」


 倒れている場合ではない。直ぐ様輝は立ち上がり、避難を始める人々のなかを走り抜ける。


「くそガキが」


 男は苛立ちを露にし、輝に撃ち続ける。物に当たろうと、無関係な人に当たろうとお構い無しだ。街は既に大混乱に陥っていた。

 誰かが通報したのだろう。警察が、救急隊員が現場に姿を見せている。


「…!?」


 輝は足を止めざるをえなかった。体力のことなど気にせず、本気で走った。なのに、もう目の前には奴がいた。

 輝は息切れて疲労があるというのに、宙に浮く奴にはそれが全くない。


「逃げられると……」


 男が開いた口をつぐんだ。遥か上空から黄色い光が走ったのだ。


「これは……」


 その光は男に命中し、吹き飛ばされる。


 輝には何がどうなったのかわからなかった。


 人々の混乱と悲鳴といった喧騒のなか、静かに輝の前に降り立ったのは、人間だった。


「遅かったか。酷い……」


 肩にかかるほどの金髪を振り撒きながら、その少女は言った。


「貴方が八神輝君?」


 輝は不覚にもその姿に見とれてしまっていた。相手の質問には無反応だった。


「もしもーし…大丈夫?」

「あ、あぁ……」


 なんとか反応する。


「八神輝君だよね?」

「……」


 そのとおりだが、輝はどうしたものか考える。素直にに言っていいものだろうかと。


「はあぁぁああぁあ!?」


 叫び声と同時に、爆発音が起こる。


「……!?」


 輝と少女は音がしたほうを見る。さっき吹き飛ばされた茶髪の男が、瓦礫から出てきていた。服はボロボロ、髪は乱れ、眼鏡はどこかへ吹き飛んだのかつけていなかった。


「時間がない。八神君でしょ? ここは私に任せて逃げて」

「え……」

「早く!?」


 少女は声が荒げる。


「わ、わかったよ」


 状況がいまいちわからないが、輝がこの場を離れたいのは山々だった。おとなしく従うことにした。


「逃がすかっ!」


 さっきまでとは打って変わって恐ろしい形相となり、輝の退路を防ぐ。輝の前に線状の光を飛ばしたのだ。その衝撃だけでも凄まじく、輝はたまらず急停止する。コンクリートはえぐられ、大きな穴が開く。


「……!?」


 放出し続ける水色の光線を、黄色の光線が弾く。ぶつかりあった両者の光は、空中にて爆発した。


 茶髪の男はギリッと歯をくいしばる。


「邪魔を……」

「それは、お互い様」


 同時に両者から閃光が放たれる。お互い吹き飛んだことだろう。


「どこに行った?」


 茶髪の男は空中で衝撃の勢いを停止させたが、相手を見失っていた。


「こっちよ」


 見ると、更なる上空で少女は、両手を前にして、親指を下に小指を上に、重ねるように組んでいた。少女の回りには、金色に輝く弾が次々と構築されていた。


「喰らいなさい!」


 一気に弾が押し寄せる。それぞれが違う動きだった。

スピードを上げ、無数の弾を避けていく。街中を低空飛行していた。避けきれないと判断すれば、自分の光球をぶつけ、相殺させた。


「……!?」


 一瞬の判断ミスだった。瓦礫の角から一つの弾が飛び出してきた。それにも驚いたが、避わすことも、相殺させることも彼には余裕があったはずだ。


 彼は無駄なエネルギーを消費しないように、避わそうとする。しかし、一つだと思っていた弾の陰から、もう一つ弾があった。


「しまっ……」


 予測しなかったことに反応が遅れた。陰に隠れていた弾を喰らい、怯んだところ、一斉に他の弾も押し寄せてくる。爆音が起こり吹き飛んだ。


 爆煙が晴れると、満身創痍といった姿を現した。


「ハァ……くそ……」

「おとなしく投降すれば、これ以上は何もしない」

「……ふざ……けるな!」


 少女の言葉に、男は苛立ちを見せた。右手を少女に向けると、激しく水色の光が集中し始めた。

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SPARKLE 神谷佑都 @kijinekoko

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