この世界は転生者を求めない

真賀田デニム

 諸悪の根源。

  

 日本の埼玉県所沢市から転生してきたというそいつは、信じられないといった表情を浮かべて剣を落とした。


「う、うそだろ? 俺は転生者なんだぞ……? なのに、なぜっ、なぜっ、こんな……ひいぃぃぃッ!!」


 しゃがんだ転生者は自分の腹から飛び出た臓物をかき集めて、必死に元の場所に押し込もうとしている。しかしうずくまって下を向いているせいか、なかなかうまくいかないようだ。

  

 ギャビンはあからさまに鼻で笑うと言ってやる。

  

「人生一発逆転狙ってトラックに跳ねてもらったのか知らねーが、この世界はほかの異世界みたいに甘くねーんだよ。もう一遍、死んで故郷に転生するんだな」

 

 俺は眼下の転生者に侮蔑の視線を送ると、愛剣テンプレンキラーを頭上に掲げる。

 

「ま、まま、待っでぐれええええっ! 絶対、絶対、この世界をずくうからっ、だ、だからだずけてくださいいいいいいいいっ お願いぢまずううううううっ!!」


「いや、この世界を救うとか勘違いもはなはだ――って、おいっ」

  

 転生者が臓物集めを止めて、血まみれの手で俺の脚に縋り付く。


 きったねーえな、この野郎。


 一瞬にして沸騰する脳。

 ギャビンは掲げたテンプレンキラーを振り下ろすと、容赦なく転生者の首を刎ねた。

 

 「はびゃれっ!?」

 

 転生者の頭部が宙を舞う。そして乾いた大地を転がっていくと、崖下に落ちた。


 まじでふざけんなよ、新調したばっかりだってのによ。

 

 ギャビンは血で汚れたブレードを転生者の服で拭くと、苛立ちから転生者の残った体を蹴り飛ばした。


 さて、報告するか。

 

 ギャビンは踵を返す。

 しかし転生者に言い忘れたことがあったことを思い出し、振り返った。

  


「この世界は転生者を求めない。故郷へ帰れゴー・トゥー・アース


 例え亡骸であっても、この言葉だけは転生者に送る。

 それがギャビンのポリシーでもあったから。

  

 

 ■□■

 


「おい、ギャビン。ちょっといいか? お前に仕事がある」

  

 ギルド支配人が呼んでいる。

 

 くそ、めんどうくせえな。どうせ御新規狩りだろ。


 ギャビンはウイスキーを一気に呷ると、乱暴に席を立つ。

 そしてギルド支配人、ライオネスの禿げ親父のところへ行くと言ってやる。

  

「止めてくれよ、御新規は。割りに合わねーんだよ。この間なんか御新規に汚された服のクリーニング代とその日のデート代で、そいつを倒した報酬全て吹っ飛んだぜ。だから御新規は――」


「違う、ランクBだ。報酬はランクD御新規の二十倍だ。……つーかお前、まだクラリネと付き合ってんのか? 止めとけあいつは。いい女だが、金が掛かる」


「いい女ってのは金が掛かるもんだろ。それに『転生者を狩る者センドバッカー』をやるからには、隣にいい女を置いておきてーんだよ。……それでランクBだって? それはどんな奴だ?」

 

 ライオネスが、写真を四枚と依頼書一枚をカウンターに広げる。


「名前はタツノリ・ヤマグチ。一ヶ月前くらいにへネスの街道に現れた転生者だ。こっちにきて右も左も分からないところを近くのライホ村の女に助けてもらったらしいのだが、その日の内にその女を蹂躙した下種野郎だ。この依頼書を見る限り、今では村中の女を従えてハーレムを作り上げているみたいだな」


「この顔でハーレムかよ」

 

 写真を見てギャビンは驚く。

 タツノリ・ヤマグチは一言で言って醜かった。

 

 小太り、チビ、豚っ鼻、落ち窪んだ瞳、ニキビだらけの顔――。モテる要素の一切ないその姿からは、一度目の人生に対しての挫折感が有り有りと見て取れる。


 だからこその転生。

 しかし外面が変わるわけではない。なのにタツノリ・ヤマグチ

がハーレムを作り上げられるのには訳がある。

 

 、か。


「で、こいつの女を虜にするチート能力は何だ? まあ、聞いても意味はねえけど」

 

 俺の問いにライオネスが一笑して、そして依頼書のある部分を指さした。


「ここだ。……『パトリオット・フィンガー』だってよ。何なんだろうな、これ。ヤマグチが叫んでいたの誰かが聞いてそのまま書いたようだが、よく分からんな。お前の目で実際に見て確認してくれ。ああ、それとヤマグチはそのチート能力で『センドバッカー』を二人殺ってる。お前は大丈夫だと思うが、一応……な」



 □■□



 転移門からライホ村の入り口に飛んだギャビンは、すぐに村の異変に気が付いた。


「何なんだよ、こりゃ」

 

 村の入り口に横断幕が掲げられ、そこには“ようこそ、たっちゃんのハーレムパラダイスへ”と書かれていたのだ。

 

 文字の周囲には過剰なほどにハートマークが描かれていて、嫌悪感をもよおすほどだ。しかしそれは村の中に入り、更に助長された。

 村の入り口から奥へと続く道の脇に等間隔に杭が打たれているのだが、その杭が全てダッチワイフの股間から口へと貫通していたのだ。

 

 悪趣味な奴だぜ。さっさと殺っちまったほうがようさそうだ。


 ギャビンは速度を速めると、村の奥へと向かう。

 おそらくそこに居を構えているタツノリ・ヤマグチがいるはずなのだ。

 淫欲を吐き出すハーレム御殿の主役として。


 途中、数人の村人、そして依頼書をギルドに送ったとされる村長とも会ったが、誰も彼もがギャビンに懇願するように泣きついてきた。

 

 状況はかなり逼迫ひっぱくしていると改めて認識したとき、けったいな建物がギャビンの目に入る。

 

 ――っ!?


 ある種の威厳を感じさせる大きさと過多とも言える装飾から、その建物は村長の家だったのだろう。しかしタツノリ・ヤマグチのある行為によって威厳は完全に失墜していた。


 ピンクだったのだ。ただひたすらに家はピンクに塗りたくってあったのだ。

 

 それはシンプルで単純。

 しかしながらその労力は甚大。

 だからこそ伝わる転生者の異常性。


 ギャビンがその光景を前にして眉をひそめたそのとき、家の中から声が聞こえてきた。


「あ、いや、もうだ、あっ、あっはああああああああああああんっ!!」


 女性が絶頂に達したかのような声。


 蒼穹を貫くようなその声から察するに、女性の相手は相当のテクニシャンだと思われる。

 その相手は十中八九、タツノリ・ヤマグチ――。


 野郎、『パトリオット・フィンガー』ってそういうことかよ。


 一瞬、羨ましく思ってしまった自分を反省し、ギャビンは“たっちゃんのおうち。股間から口を貫くほどの快感を得たい方はどうぞ”と書かれたドアへと足を向ける。

 そのとき、ドアが開く。出てきたのは見目麗しい女性だった。

 

 その女性はふらふらと覚束ない足取りでこちらに向かってくると、途中で糸が切れるように地面に倒れこんだ。


「おい、大丈夫かっ!?」


 ギャビンは倒れた女性を抱きかかえる。

 すると恍惚な表情を浮かべている女性は蚊の泣くような声でこう言った。


「あ、あんなの……は、じ、め、て……」


 そして意識を失う女性。

 ギャビンがもう一度女性に声を掛けようとしたとき、それは別の音声によって遮られた。


「そ、その人は村の人間じゃないけど、僕の噂を聞きつけてわざわざ遠くから来てくれたんだ。と、とても気持ちよさそうにしてくれて……グフッ、僕も大満足だよ」


「てめえ……ヤマグチ」


 写真の男、タツノリ・ヤマグチがいた。

 実物は写真と寸々違わぬぶ男ぶりであり、同じ男として同情の念すら抱かせるほどだ。 


 そのタツノリ・ヤマグチが両手の指を眼前でワシャワシャと動かしている。

 それはまるで意思を持った生物のようで、ギャビンは吐き気を催した。


「あ、あんたのその攻撃的な格好……。もしかして『センドバッカー』とかいうやつ? ぷっ、しょうこりもなくまた来るとかウケるうううううっ。グフフ」

 

 とことん気持ち悪い野郎だな。


「ああ、お前の推測通り、俺は『センドバッカー』だ。呼んでもねえ転生者を片っ端からぶっ殺す正義のヒーローさ。そう、お前らは悪だ。チート能力を使ってやりたい放題……この世界を混沌に陥れる悪なんだよ」

 

 タツノリ・ヤマグチが「ぺっ」と唾を吐く。

 それはうまく飛ばなくて、口から糸を引いて地面に垂れた。


「い、言いたいこと、それだけ? あのさ、こっちは痛い思いしてわざわざ死んでさ、神様からチート能力をもらってるんだよ? それを使わないとか、グフフ、有りえねえええ。なんのための異世界転生だよ。バカなの? クソなの? あんた? グフッ」


 だからその笑い方、止めろっての。


「ったくどいつもこいつも……地球って星には屑しかいないようだな。……話は終わりだ、ヤマグチ。村を私物化して女達を奪い犯した罪、死んで償ってもらうぜ」


「は? ね、猫ちゃん達は好きで僕のところにいるんですけどー。ま、いいや。よ、よーし、来い、『センドバッカー』。あの二人みたいに返り討ちにしてやるっ。言っておくけど、賢者タイム中の僕は強いよ? ……た、滾れぇ、そして唸れぇ、僕のダブルアーム――ッ。パトリオット・フィンガアアアアーッ!!」


 タツノリ・ヤマグチが叫ぶ。

 刹那、ぶ男の背後から巨大な何かが飛び出て、ギャビンへと襲い掛かった。

 すんでのところで避けたギャビンは背後を振り返り、その何かを見る。


 それは大きな手だった。


 仔細に語れば、タツノリ・ヤマグチの肩からゴムのように伸びた半透明の巨大な両手――であり、それはぶ男の両手と連動しているようだった。

 タツノリ・ヤマグチが指をワシャワシャとすれば、大きな両手も指をワシャワシャとするように。


「へ、へえ、やるじゃん。こ、この前きた二人は最初の攻撃で捕まえて、そのまま背骨へし折ってやったけど、あんたは少しはできるようだね、グフ」


「そりゃどうも。お前も『センドバッカー』を二人殺るなんて、なかなか――」


「だが、しかしっ! 僕には勝てない。なんてったってチートだからね。転生者だからね、最強だからね。……いっけえええええ、パトリオット・フィンガーアアアアアッ」


「無視かよ――」


 ギャビンは再び、迫り来る巨大な両手を前に回避行動を始める。

 

 そして――。


 反撃はせずひたすらに避け続けること、五分。タツノリ・ヤマグチの攻撃が止まった。


「はあ、ひい、はあ、ひい……。な、何でだよ。何で僕のパトリオット・フィンガーがかすりもしないんだよっ!? ……つ、捕まえさえすれば、捕まえさすればてめぇなんか板チョコのようにパッキパキにしてやるのにいいいいッ!!」

 

 汗まみれのタツノリ・ヤマグチが、醜い顔全開で叫ぶ。

 そしてそれは、ギャビンにとってでもあった。


「ほう、そうか。捕まえさえすれば俺を倒せるときたか。……よし、じゃあいいぜ。俺はこの場から動かない。ボーナスタイムだ。ほら、攻撃してこい」


「い、言ったな? 絶対の、ぜえええったいにそこから動くなよ? お、男に二言があっちゃいけないんだからな? ……い、一応聞いておくけど、もし、僕が攻撃して動いたらどうする?」


「うるせーな。動かないって言ってんだろ。早くしろよ、このDQNどきゅんが」

 

 ギャビンはいつの日か、転生者に言われた言葉を口にしてみる。

 意味は不明だったのだが、タツノリ・ヤマグチの怒れる表情を見て、悪態の一種だったらしいと今知った。


「こ、このやろう、異世界人のくせに2ちゃん用語で僕をバカにするとか舐めやがってっ。ぶっ殺してやるっ!  いっくぞぉ……パトリオット・フィンガー、ファイナルアタアアアアアアアアアックッ!!」


「いや、お前が異世界人だろ」

 

 具現化したチート能力がギャビンに猛進する。

 それは左右に別れ、ギャビンの両肩をむんずと掴んだ。

 

 下卑た笑みを浮かべるタツノリ・ヤマグチ。

 しかしその表情はすぐに焦りのそれへと変わった。


「ど、どうなってんだ? へ、へし折れないっ? というよりびくともしない……っ。どうして、どうしてなんだよっ!? 俺のはチート能力なんだぞおおおっ!!」





「……チ、チート耐性活性……え? そ、それはなんだっ!? 詳細に説明せよッ!!」



「脳内物質さ。この物質が出ると俺には一切のチート能力が利かなくなる。出る条件は一つ。相手のチート能力を四分二十二秒体感すること。……いや、お前の攻撃が遅くて助かったよ。ランクBと言っても、お前の運動能力はランクD以下だったようだ」


「チ、チート能力が利かなくなるとか、どんなチート物質だよっ!? そ、そんな、そんな馬鹿なことがあってたまるかぁっ!」


 これ以上の問答は無用。

 俺は一気に間合いを詰めると、テンプレンソードをタツノリ・ヤマグチの股間へとあてがう。


「お前も、股間から口を貫くほどの絶頂感を味わってみろ」


 青ざめた表情のタツノリ・ヤマグチ。その口が慌てふためいたように動く。


「ま、ままままま、まってっ、まだ死にたくなぁいッ!! もっと彼女達をもみしだきた――」


「この世界は転生者を求めない。故郷へ帰れゴー・トゥー・アース


 テンプレンソードがタツノリ・ヤマグチの股間から口を切り裂いた。

 


 ■□■



 ライオネスがギルドの入り口に立っている。

 俺を認めると手を上げた。

 

「おう、ギャビン。いいところに戻ってきた。ちょいと大事な話があるんだがいいか? うちのエースであるお前も聞いておいたほうがいいと思ってな」


「何だよ、大事な話って。こちとら一仕事終えて疲れ……ん?」


 俺はそこで気付く。

 ライオネスの隣にいる男の存在に。

 

 ライオネスの知り合いなのだろうか、その三十代と思われる男は俺の視線に満面の笑みを返してくると、口を開く。


「はじめまして、ギャビンさん。わたくし地球アースのカド〇ワという企業で編集長な仕事をしているハギ〇ラと申します。此度は転生者に関わることでご相談がございまして、『転移門』を使ってはるばるこの世界へとやってきました」


 って何だよ。

 いや、突っ込むところはそこじゃない。こいつは今――ッ!

 

 俺はテンプレンソードを抜くと、刃先を男の首筋に向ける。

 少しでも動けば、即斬首――。

 俺の意思は伝わっているだろう。


「びっくりさせんじゃねえよ。おい、ライオネスっ、てめぇ、こりゃどういうことだ!? 何で平然とした面浮かべて転生者と一緒にいやがるんだっ?」


「落ち着け、ギャビン。この人は転生者じゃなくて、だ。安易に死んで、人生やり直そうと考えている奴らとは根本的に違うんだよ。剣を収めろ、ギャビン。とりあえず話を聞こうじゃないか」


  

 ■□■



 ――今地球では、膨大な量の異世界転生小説が書かれてるんですよ。まあ、書きやすいんでしょうね。知識も資料も必要なしに、作者のルールで世界を作り上げることができますから。だから思い立ったら吉日みたいにライトノベルを書く人間の大半は、まずは異世界転生ものに手を出すんですよ。


 そしてそれが売れてしまう現実がある。主な理由の一つが転生後に得るチート能力の存在でしょう。このチート能力っていうのが本当に魅力的でしてね。その圧倒的な能力ゆえに無双を生み出し、結果強い男は女にモテてハーレムを形成するという構図を作り上げてしまうんです。


 そりゃ、売れますよね。感情移入の対象である主人公が、強くてモテてハーレムを作るんですから。こんなに気持ちのいいものはない。読者に満足のいく読後感を与えるという意味では、十分に異世界転生小説はアリなんです。そこに小説としてのおもしろさがあるかどうかは別にしてね。


 要するに地球では異世界転生小説が溢れかえり、比例して異世界に旅立つ転生者も増えた。転生者は本来想像の産物のはずなんですが、どうやられっきとした人間の姿で異世界に転生されていたようで、私達もそれを知ったときは驚いたものです。教えてくれたのは『全宇宙異世界連盟』という組織からの使者なのですが、その使者は地球のライトノベルレーベルに対してこう通達したのです。



〔異世界転生モノは書かせるな。これ以上、転生者による異世界での横暴は許されない。この約束が守れない場合は地球を滅ぼす〕


 

 これを聞いて、私達ライトノベルレーベルは非常に焦りました。

 ライトノベルで圧倒的なシェアを誇っている異世界転生小説が書けなくなれば、当然出版社である私達も甚大な被害を被るわけですから。もしかしたら倒産なんてレーベルだって出てくるかもしれない。


 そのときでした。私達の当惑ぶりを見かねてなのか、使者がこう言ったのです。“”――と。


 その使者は帰り際にあらゆる異世界に通じる『転移門』と、『連盟未加入異世界リスト』を貸してくれまして、同時に結論を出すまで一週間という猶予も与えてくれました。


 そして、それから六日後の今日です。

 多くの編集者を捜索の途中で失うという悲劇を経て、ようやく理想の異世界にたどり着いたのは――。


 

 その時だった。ハギ〇ラがその顔に歪な笑みを貼り付けたのは。

 それは、チート能力者に対しても感じることのない、一種のを覚えた瞬間でもあった。


「ねえ、ギャビンさん。こ、この世界って転生者を殺してるんですよね? あなたは、いやギルドを含めた『センドバッカー』の皆さんは転生者をぶち殺して生活の糧を手に入れてるんですよねっ? だったら私達と相互扶助契約を結びませんか!? つまりウィンウィンの関係って奴ですっ。こっちはじゃんじゃん異世界転生小説書くんで、そっちもどんどん転生者をぶっ殺していくってだけのことですッ。

 お願いしますよ。別に今までとそんなに大きく変わるってわけじゃないんですからっ。……私達はね、まだ異世界転生小説を手放したくないんですっ。だってそうでしょっ? あれは金になる。そう金になるんだよッ。ちっともおもしろくもなんともねぇけど、あれは売れるんだよッ!!


 異世界!

 チートっ! 

 無双ッ!!

 ハーレムッ!!!!


 たったこれだけの要素があるだけでバカみてぇに売れるんだよぉ、バカみたいによぉぉぉ。……は、はは……なんなんだよ、なんでこんなことになっちまったんだよ、くそ。俺の知ってるライトノベル、あんなんじゃなかったのになぁぁ。もっと……もっと心に響くもんがあったのになぁぁ。ふ、ふぐ、うう、うぉぉ……ッ」



 大地に突っ伏して慟哭するハギ〇ラ。

 その姿はどこまでも悲哀に満ちていた。


 本来の気持ちに背いてまで、損得で動くことしかできない哀れな男を見下ろして俺は思う。

 

 自分に正直に生きなくて何が楽しいんだよ。


 食い扶持がなくなってクラリネに振られる己を容易に想像できたが、結局確固たる遺志が揺らぐことは無かった。

 ギャビンはテンプレンソードのグリップに力を込める。

 

 そして――。



「この世界は転生者を求めない。故郷へ帰れゴー・トゥー・アース」  

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