騒動(後編)
アカクアの町長が船を出すなと言って町民の声を全く聞かない頑固じじいというのはよく分かった。
頼める状況でもないので別ルートを探す為に引き返そうとした時だった。
「見慣れない顔だな。旅の者か?」
「あ、はい。でも皆さん忙しそうだし、船も出ないみたいなので失礼します」
「ちょっと待った! 貴様、その背負っている物は剣か?」
「そうですけど」
「ちょうど良かった。この町民達を追い払ってくれぬか。 私はこんな所で油を売ってる時間はないんだ」
「剣を人に向けるのは出来ませんね。なのでお断りします。では」
「貴様の為だけに船を出してやると言ってもか? 船に乗りたいのだろう?」
「困ったな。どうしようマリン…。あれ? マリン? マリン!?」
「フィンさん見てください! こんな大きな魚が獲れました」
「君は何をしているんだい?」
「弓の練習をしようと海の魚を目標に矢を放っていたら見事命中して。で、こちらまで流れ着いたのでそのまま獲ってきました」
「おお! こりゃすげー。今日のご飯は豪華になるぞ。じゃあ町長さん、そういう事なので」
僕の頭の中は魚料理を考えるのでいっぱいいっぱいだった。
マリンも嬉しそうに魚を持っている。
「ま、待て!」
「まだ何か?」
「それなんだ」
「はい?」
「その魚が食べたかったのだ。私に譲ってくれないか?」
「えー。でもせっかくマリンが初めて獲った魚なのに」
「金は渡す。船も出す。何なら港を開港するから頼む!!」
「え? 開港してくれるの? 町民の人たちも船出していいの?」
「ああ構わん。だからその魚を…」
「良いですよ」
「マリン?」
「魚1匹で町民の皆さんが助かるなら」
「マリンが言うなら良いけど」
「ありがとう! ありがとう!」
こうして町長のワガママで振り回されたアカクアの騒動は、マリンの弓の練習成果によって解決した。
「ありがとう! あんた達は我々の恩人だ! 今日の宿は決まってるのか? もしまだならうちの宿に泊まってくれ。宿代も食事代もいらない、お礼をさせてくれ」
「え、良いんですか? ではお言葉に甘えて」
こうして祝いのお祭り騒ぎで一晩飲み明かした。
船も出してくれる。
海の真ん中にあるあの島に行く足を確保出来た。
明日はあの島に向けて出発だ。
僕の小冒険 真灯出 愼 @sanatoude_sin
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