第38話エンディング

 鼻の曲がった小野田も相棒あいぼうといっしょに死んだ。小野田の新居しんきょ襲撃しゅうげきして証拠となりそうなすべての家財道具を瑛太が押収、処理した。警察の的外まとはずれな犯人探しは今も続いている。


 スミレは売春から足を洗い、今後の身の振り方を考えている最中だ。本人は飲食店経営に興味を持っている。お父さんが田舎でラーメン屋を経営してるので実家で修行すればいいのに。ところがスミレに言わせるとラーメン屋は嫌なのだという。何でも、セレブのカップルがおしのびでデートに来るようなレストランを経営したいらしい。若いインディペンデンスな女がよく言いそうなことで、俺は笑ってしまった。


 一方、瑛太はフットワークが軽い。D−7が解散になるとすぐにタクシードライバーになった。それに必要な運転免許証はすでに持っていたという。だが、一番重要なことはそれが表向きの仕事だということだ。実は、瑛太はタクシーを運転しながら違法ドラッグの運び屋をしている。それは、違法ドラッグの元締もとじめから個々の売人ばいにんへだったり、売人からそれぞれの客へだったり。中でもタクシー内での関係者とのやりとりは絶対警察にはバレないのだと瑛太は自慢げに語っていた。「いい歳してそんなことでいいのかよ?」という俺の問いに対して瑛太は「オマエには関係ない」とだけ答えた。


 そうして俺はルリの墓に別れを告げた。


 一連の事件が嵐のように過ぎ去って、大きな出来事があった。俺にナイフをプレゼントしてくれたリリアが結婚したのだ。リリアのお相手は、旅客機を作っている大企業の重要ポストに就く切れ者の御曹司おんぞうしだ。俺の手料理を食べた男である。

 結婚直前リリアは難病の子供たちに対するボランティア活動をしていることが世間で話題になり、それをきっかけにあれよあれよと言う間に結婚式はテレビ中継されることとなった。披露宴には政財界の要人ようじんも出席した。もちろん俺は呼ばれていない。俺はリリアのウェディングドレス姿を自宅でカップラーメンを食べながら見ることとなった。確かにみじめではあった。

 それ以来リリアからは一切連絡が来なくなった。

 

 その代わり親父からはよくメールが来る。SNSは介さず単独のメールで来る。内容は無邪気むじゃきでたどたどしいものが多い。日本語を覚えたての幼児のような文章だ。ムカつく。わざとである。あれだけ俺に対する憎悪と殺意を理路整然りろせいぜんうったえてきたというのに。

 あれ以来俺は実家に帰っていない。というか帰れない。俺は親父にどう対処すればよいのかわからなくなってしまった。俺は親父が好きだった。それゆえ今回、親父のフォローを懇切丁寧こんせつていねいおこなったのだ。完全におんあだで返された心境。いずれ親父とは決着をつけなければならないだろう。何てこった。


 最後にルリについて話しておいたほうがいいだろう。

 なぜ鈴木大介がルリを殺したのか。俺は鈴木大介の父親である通称CEOから約束通り彼のパソコン、スマホを譲り受け、中身を調べてみた。

 真実は実にあっけない。鈴木大介のスマホにはルリとのメッセージのやり取りの履歴がすべて残っていた。それから次のようなことがわかった。

 当時、鈴木大介は自分が経営する違法売春組織で働くルリに手を出した。つまりルリを自分の女にしたわけだ。しかし、新しい女ができてルリが邪魔になったというわけである。よくある話。普通すぎる。

 特別正義感に燃えたわけでもなく、成り行きで俺はここまで来たのだ。これも何かの縁である。再びルリの墓へ行くことになるだろう。かわいそうなルリ。せめて俺はルリのことを忘れないでいてやりたい。


 意外なこともあった。俺は鈴木大介のスマホの中から俺自身が映った画像を発見したのである。ルリが、スーパーマーケットで買い物をしている俺の姿を盗み撮りした画像。俺は、初めてルリの墓参りをした時、スミレにその画像を見せてもらっていた。ルリはスミレの他に、鈴木大介にもそれを送っていたのである。


 画像に写る、スーパーマーケットで一番安い長ネギを買い物カゴに入れてる俺はまことに無知で間抜けな顔であった。

 リリアにもらったナイフがうずくのを感じた。

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ロスト・アヴェニュー Jack-indoorwolf @jun-diabolo-13

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