最後の一コマ
大学が再開して二日経ちました。今現在の講義はお試し期間のようなもので、まだ履修するかどうかの変更が利きます。
我々大学生はどの科目を履修すれば最善の学生生活を送れるか吟味し、時に情報を交換します。
そんな折、私は大学図書館のパソコン室で、オンラインシラバスを眺めていました。あと一コマ入れたいんですけど、中々決まらないのです。
「あれ、奈子ちゃん。何してるの?」
声をかけて来たのは軽くウェーブのかかった茶髪の美人さん。
「お久しぶりですね。ちょっと履修計画で悩んでまして」
「なるほどねー。アレっていつまでだっけ?」
「文学部は来週一杯までと掲示板に書いてました」
「そっか。まあ自分は既に決めてるから問題ないけどね」
「羨ましいですね……。何かおすすめないですか。演習以外で」
聡梨ちゃんはしばらく思案してから言いました。
「あ、横山さんの講義なんていいんじゃない」
「横山さん……。哲学科の先生ですよね」
私たちは二人とも文学部の学生で、聡梨ちゃんが哲学科、私が歴史学科です。
前期の講義を受けた聡梨ちゃん曰く、横山准教授の講義は出席も取らないし期末のレポートさえ提出しておけば単位はまずとれる、とのこと。
授業自体もそこそこ面白いらしく、また講義中に寝ていても怒られないとか。
「むしろ眠くなったら寝ていいですよ、っていう人だからね」
不思議なことに、そう言っておいた方が寝る学生が少なくなるらしいです。ウソかホントかは知りません。
兎も角シラバスで横山先生の講義を探してみますと、ちょうどいい具合に他の履修予定の科目とは被っていません。
内容は……デカルトだのカントだのヒュームだのといった人名が並んでいます。なんかよくわかりませんが、とりあえず哲学の基礎的なことをやるのではないでしょうか。
「哲学取る女の子少ないからね、ウェルカムだよ」
確かに文学部は全体として女子の比率が高いのですが、哲学科に限っては比率が均衡、ないし逆転しているかもしれません。
まあそれでも理系学部と比べれば多い様子ですが。
「……ところで聡梨ちゃんは何しにここに?」
「おっとそうだった、夏休みに受けた集中講義のレポートをプリントアウトしに来たんだった」
「家でやればいいじゃないですか?」
「丁度用紙が切れちゃってさー」
と言ってUSBメモリを取り出しました。それをパソコンに接続します。
「あれ、レポートが入ってないや」
「間違えて持って来たんじゃないですか?」
「ありうる……」
割とおっちょこちょいな聡梨ちゃんなのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます