一人きりの境内は葉擦れに満ち満ちて
久方ぶりに一人で近くの神社を訪れてみました。小さなどこにでもありそうな、地元の人間ですら好き好んでは訪れない神社です。
山の袂にある神社は鬱蒼とした木々に覆われています。どこまでが鎮守の森なんでしょう。石造りの階段も木々に埋もれるようにしてありました。
日の射さない階段の端を上ります。二、三十段ほどでしょうか。帰りに数えてみましょう。
階段を上り切ると鳥居があります。その先は境内です。狭い境内には小さな社殿があるのみ。子供の頃はもっと広く感じられたんですが。
鳥居は石造りのものです。朱塗りのそれよりは、私はこちらが好みですかね。苔むしたりしているとなおよし。てっぺんに石ころが積まれていたりすると、それもまた趣があります。
朱塗りの鳥居もお稲荷さんなんかにはよく雰囲気に合っていて好きなのですが、こんな田舎の寂れた神社には少し似合わないような気がします。
さて賽銭箱の前に立ちます。お賽銭はちょうど五円玉がありましたのでそれで。
五円玉を投げ入れて、からころと鈴を鳴らします。取りあえず家族の健康をお願いしておきましょう。
首尾よく参拝を終えた私は、そこで目を閉じました。葉擦れの音が聞こえます。たまに小鳥の鳴き声が混じります。ひたすらに静かな時間です。
たった一人、その自分の存在さえ消えてしまったかのような不思議な感覚。観光地化している大きな神社だと、中々こうはいかないものです。
さやさやと、あるいはざわざわと、もしくは流れるように木の葉は音を立てます。一度として同じ音色を響かせることはありません。
この葉擦れの音は、一生に一度、この時にしか聞くことの出来ない音なのです。ええ、本来は万事がそうなのですが。
目を閉じて風の音を聞いていると、そんなことを考えてしまいます。そんなことを考えるのもまたよきかな。
一人きりの境内で、風にそよぐ木々の葉擦れの音を聞く。私はこの時間がたまらなく好きなのでした。
目を開きます。そこには小さな社殿があります。一度きりしかない日常の世界でした。
私は「また来ますね」と心の中で呟いて、神社を後にしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます