はらわたぶちまけて「そんなに偉いのか」問うバッタ

 神社からの帰り道のことでした。

 一匹のバッタが道路の上でぐしゃりと潰されて、息絶えていました。

 結構大きいです、トノサマバッタでしょうか。車にでも引かれたんですかね。見るも無残な姿でした。

 それを見下ろしている私に、彼が「お前はそんなに偉いのか?」と問いかけているような気がします。


 さてさて、こんな場合に私は一体どんな感情を抱くのが正しいのでしょう。嫌悪でしょうか、それとも憐憫でしょうかね。

 なるほど、どちらも私の内に少しも芽生えなかったとは言えません。

 ただ、彼はきっと鼻で笑って言うような気がします。「そんなものは求めていない」と。


 これはあれですね。アスファルトの上で干からびたミミズに通ずるものがあります。きっと土の地面であれば、ミミズは死ぬこともないのだと思います。

 けれど残念なことに、もはやアスファルトの道路が存在しない町を探すのは難しい世の中になりました。少なくとも、ここ日本では。

 だからと言って、はらわたをぶちまけた殿様や、体中の水分を失ったミミズたちを憐れむのは、何だか違うような気がするのです。

 それこそ、「お前はそんなに偉いのか?」という話です。

 けれども、私はどう頑張っても彼らの目線に立つことは出来ません。バッタであるとはどういうことか、知っているのはバッタだけです。


 ああ、なんということでしょう。そんなことを言いながら私は悲しいのです。私は彼に触ることも出来ないのに!

 害虫を喜んで駆除する私は、彼らに鼻で笑われて仕方のない偽善者です。こんな有様では、明日にでも彼らのことを忘れたとしても不思議ではありません。


 そうしないためにも、私はこの備忘録をつけているのです。全てを抱え込んで生きたい、私はそう思うのです。

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