夏のみかん山を行く
私は軽トラの助手席に座っていました。
狭い車内にはボロボロの手ぬぐいやら滑り止めが剥げ落ちた軍手やらが散らばっており、お世辞にも清潔とは言えませんでした。私も助手席のシートに座るのにちょっぴりためらいましたし。
運転しているのは祖父です。今から向かう場所は通称みかん山。恐らく全国には無数のローカルなみかん山が存在するに違いないでしょう。
もちろんこれからピクニックに行くわけではありませんから、私の服装は長靴にジャージ、持参した軍手とタオルに麦わら帽子というもの。日焼け止めと虫よけスプレーも使用済みです。
やがて軽トラは高速道路の上を橋渡しする
祖父は脇道に入りました。軽トラじゃなきゃまず登れないだろうな、と思われる狭い坂道です。道にまで伸びてきているみかんやら何やらの枝をものともせずに突き進みます。
暫くして、祖父は軽トラを路肩に止めました。
どうやら到着したようです。この一画は祖父の持つ土地であります。小さい頃には何度か来たことがあるのですが、最近は来ていませんでしたね、ここ。
さて、我々は何をしに来たのかと言うと――。
「で、何すればいいの?」
「よさげな枝ぁ見繕って切りゃあええ」
とのことです。私たちは
花芝とは何ぞや。これはこの辺りではシキミを指す言葉です。さてシキミとは何でしょう。こちらではお墓によくお供えしてある木です。私も詳しくは知りません。
兎も角これからお盆を迎え、墓参りシーズンとなります。その用意ですね。祖父も年なので、「一人ではようやらんわい」ということでちょうど帰省していた私が駆り出されました。
祖父が赤いグリップの剪定ばさみで早速花芝の枝を摘んでいきます。私もそれを真似るとしましょう。にしてもなんか独特な形状の実をつけますね、これ。まだ緑色ですけど。
あらかた作業も終わり、切り落とした花芝の枝を集めて軽トラの荷台に載せ終わりました。荷台にわんさと積まれた花芝は、我が家で使うだけでなく近所に分けたりしているらしいです。母の実家にも持って行ってますね。
「よっしゃ、もうええやろ」
そう言った祖父は、運転席でもぞもぞしたかと思うと、何かを取り出しました。茶色い小瓶に入った元気ハツラツな炭酸飲料です。私に一本渡すとすぐ飲み始めました。私も祖父に習います。
あまり冷えていないけど、不思議とおいしい。味覚というものはやはりそのシチュエーションが大事ですね。
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